包括利益の表示に関する会計基準(その1)
「包括利益の表示に関する会計基準」(企業会計基準第25号)が平成23年3月31日以降終了する連結会計年度から適用されます。すなわち、同基準が適用されるのは当面連結財務諸表のみで個別財務諸表への適用については、現在審議中で、この会計基準の公表(平成22年6月30日)から1年後をめどに判断することとされています(第14項)。
この点、基準の作りとしては、既に個別財務諸表についても記載されているので注意が必要です。
以下、連結財務諸表における適用を前提に記載します。
「包括利益」とは、ある企業の特定期間の財務諸表において認識された純資産の変動額のうち、当該企業の純資産に対する持分所有者との直接的な取引によらない部分を意味します(第4項)。当該企業の純資産に対する持分所有者は、当該企業の株主のほか、当該企業の発行する新株予約権の所有者が含まれ、当該企業の子会社の少数株主も含まれます。
直観的には資本取引と少数株主持分の変動以外の純資産の変動を包括利益と呼ぶとイメージすればよいと思います。
「当該企業の純資産に対する持分所有者との直接的な取引によらない部分」の解釈において、資本取引と損益取引のいずれにも解釈しうる取引については具体的な会計処理を定めた会計基準に基づいて判断することとされています(第25項)。例えば、新株予約権の戻入益や、支配が継続している場合の子会社に対する親会社持分の変動によって生じた差額は現行の基準を斟酌すると「当該企業の純資産に対する持分所有者との直接的な取引によらない部分」に該当する(すなわち包括利益となる)とされています(第25項)。
次に包括利益の中に「その他包括利益」が存在します。「その他包括利益」とは、包括利益のうち当期純利益及び少数株主損益に含まれない部分を意味します(第5項)。
すなわち、「包括利益=少数株主損益調整前利益(当期利益+少数株主損益)+その他包括利益」という関係になります。
「その他包括利益」は具体例でイメージしたほうが分かりやすいと思いますので、具体例を示すと、その他有価証券評価差額の変動額や繰延ヘッジ損益の変動額、為替換算調整勘定の変動額が該当します。
<包括利益の計算の表示>
包括利益については、少数株主損益調整前当期純利益にその他包括利益の内訳項目を加減して包括利益を表示することとされています(第6項(2))。
その他包括利益の内訳項目は、その内容に基づいて、その他有価証券評価差額金,繰延ヘッジ損益,為替換算調整勘定等に区分して表示します。なお,持分法適用会社のその他の包括利益に対する投資会社の持分相当額は,一括して区分表示します(第7項)。
また、その他の包括利益の内訳項目は以下のいずれかの方法で表示する必要があります(第8項)。
①原則
税効果を控除した後の金額で表示する方法
②容認
各内訳項目を税効果を控除する前の金額で表示して,それらに関連する税効果の金 額を一括して加減する方法
また、いずれの方法を採用したとしても項目別の税効果の金額を注記することが求められています。
さらに、当期純利益を構成する項目のうち、当期又は過去の期間にその他の包括利益に含まれていた部分は、組替調整額として、その他の包括利益の内訳ごとに注記することが必要となります(第9項)
なお、上記の項目別の税効果の金額の注記及び組替調整額の注記については、平成24年3月31日以後終了する連結会計年度から適用開始となります(第12項、第13項)。
<包括利益を表示する計算書>
包括利益を表示するための計算書には、当期利益を表示する損益計算書と包括利益を表示する包括利益計算書を別個に作成する2計算書方式と、それらを一つの計算書(損益及び包括利益計算書)で表示する1計算書方式の二つの方法が認められます。
基準において、1計算書方式、2計算書方式の表示例として挙げられているものを抜粋すると以下のとおりです。
日々成長。