定額残業代未消化部分の翌月以降への繰越の可否-再考(その2)
前回のエントリの続きです。
ビジネスガイド2012年1月号「裁判例をふまえた定額残業代未消化部分の翌月以降への繰越しの実務」によれば「裁判所で定額残業代が争われるケースのほとんどで、労働者から小里機材事件が引用され、かかる基準を満たしているかどうかが検討されている」ということで、それをふまえた規程等における注意点として述べられていた事項をまとめます。
1.雇用契約書、賃金規程
・対象となる手当と残業代として支給する金額を明示する
・差額の取り扱いを明確にする。定額分を超過した分を支払うのは当然ですが、小里機材事件の判例からすると、超過分の取扱いについても明確にしておいた方が無難とのことです。
2.給与明細書
・給与明細書の該当箇所に時間外労働に対する賃金支払いであることを明示する
基本給の中に一定時間分の残業代を含めているようなケースでは、残業代見合い分とそれ以外の分の金額を区分して表示しておくのが無難です。この点については、就業規則で割増賃金の計算方法が明示されており、各自が計算すれば一意に確定するものであっても、実際に労基署の調査が入った場合には、給与明細に明示するようにという指導されることがあります。
・未消化部分の繰越しを行う場合は、繰越額を明示する。
未消化部分の繰越があってもなくても、規程等で計算ルール等の取り扱いを明示し、残業代見合いとして支払われている金額を給与明細書で従業員に明示するようにするという取扱いは同じといえそうです。
SFコーポレーション事件についても述べられていたので紹介します。
以前の私が書いたエントリでも定額残業代の未消化部分の繰越を認めた判例としてSFコーポレーション事件を使いましたが、この事件は「管理手当」の支払いが時間外手当等の内払いとして認められるかが争われたもので、定額残業代の未消化部分の繰越の有効性を争ったものではありません。
SFコーポレーションの給与規定では以下のように定められていたそうです。
第17条 管理手当は、月単位の固定的な時間外手当の内払いとして各人ごとに決定する。
2 給与規定16条に基づく計算金額と管理手当の間で差額が発生した場合、不足分についてはこれを支給し、超過分について会社はこれを次月以降に繰り越すことができる。
その他、労働条件通知書兼同意書や給与支給明細書でも、管理手当が残業代の内払いであることが明示されていました。
このような状況で裁判所は「ところで、給与規定17条2項は、計算上算定される残業代と管理手当との間で差額が発生した場合には、不足分についてはこれを支給するとしつつ、超過分については被告が繰り越すことができるとしているのであり(略)未払い時間外・深夜労働割増賃金は存在しない」と規定の有効性を前提とした判断を下したことから、このような規定も有効と言われるようになりました。
最後に何度もしつこいですが、未消化部分を繰り越すくらいなら最初から残業代を支払うという方がいいように思います。
上記の記事では述べられていませんが、未消化部分を「次月以降に繰り越すことができる」とした場合、常に効率的に働き続けた場合は未消化部分が雪だるま式に増えていくことはないのかが気になります。また、定額残業代の繰越部分が翌月以降の残業代の前払いとするならば、退職時には返金する必要あるのではないかと思いますが、未消化部分が累積された後、退職するとなると相当の返金が必要となるのではないかも気になります(場合によっては辞めたくても辞められないなど)。
日々成長。