条文の読み方(その1)-「及び」「並びに」
法律などの条文を確認していると、長い条文に出くわすことがよくあります。条文が長い上、括弧書きが多様されているもの(二重括弧になっていることもよくある)は理解に苦しむことがあります。
このような条文を理解しにくい原因の一つとしては、条文で使用されている接続詞や用語の使い方を正しく理解できていないこともあるのではないかと感じます。
そこで、条文で使用される接続詞等の使い方のルールを確認していくことにします。なお、条文の読み方については、「条文の読み方」(法制執務用語研究会著)が非常に参考になります。値段も800円と手頃なので、条文にあたる機会が多い方で、条文の読み方は完ぺきという方以外は手元に置いておくと重宝すると思います。
今回は、「及び」「並びに」の使い方について確認します。
用途
「及び」、「並びに」はいずれも二つ以上の語句を並べるときに使用されます。
使用上のルール
- 同じレベルで二つの語句を並べるときは、「A及びB」と用いる(ルール1)。
- 同じレベルで三つ位以上の語句を並べるときは、それぞれの語句を「、」で区切っていき、最後の語句の前に一回だけ「及び」を用いる。ただし、用言が並ぶときには「及び」の前にも「、」を打つ(ルール2)。
- 同じレベルの二つ以上の語句とレベルが異なる語句を並べるときは、一番小さな段階に一回だけ「及び」を用い、それより大きい段階には、すべて「並びに」を用いる(ルール3)。
上記ではルール3を理解しているかどうかで条文解釈力に大きな差が生じる可能性があります。「及び」でつながれた語句よりも「並び」につながれた語句の方がより大きな括りであるということは覚えておいたほうがよいと思います。
なお、このルールによって2階層までの条文であれば、接続詞に着目することで構造が理解できるのですが、3階層以上なる場合は「並びに」が複数回登場することになりますので、意味やまとまりでどのような並列構造になっているのかを考えるしかありません。
使用例
1.ルール1の「及び」
労働基準法第15条3項
「行政官庁は、前項の基準に関し、期間の定めのある労働契約を締結する使用者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。」
上記のケースでは「助言」と「指導」が並列で並べられています。
2.ルール2の「及び」
労働基準法第38条の4第5項
「第一項の委員会においてその委員の五分の四以上の多数による議決により第三十二条の二第一項、第三十二条の三、第三十二条の四第一項及び第二項(・・・以下省略)」
上記では参照条文が並べられており、最後の参照条文も前に「及び」が使用されています。
3.ルール3(2階層)
労働基準法第12条4項
「第一項の賃金の総額には、臨時に支払われた賃金及び三箇月を超える期間ごとに支払われる賃金並びに通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないものは算入しない。」
上記は2階層のケースで、一番小さな階層として金銭で支払われる「臨時に支払われた賃金」と「三箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」を「及び」でつないだ上で、金銭で支払われる賃金グループと「通貨以外のもので支払われた賃金」を「並びに」でつないでいます。
4.ルール3(3階層)
労働基準法第32条の4第3項(1年単位の変形労働時間制)
「厚生労働大臣は、労働政策審議会の意見を聴いて、厚生労働省令で、対象期間における労働日数の限度並びに一日及び一週間の労働時間の限度並びに対象期間(第一項の協定で特定期間として定められた期間を除く。)及び同項の協定で特定期間として定められた期間における連続して労働させる日数の限度を定めることができる。」
「並びに」が2回登場しますが、まずは「及び」に着目して一番小さいまとまりを確認すると、「対象期間(第一項の協定で特定期間として定められた期間を除く。)」(における連続して労働させる日数の限度)と「同項の協定で特定期間として定められた期間」(における連続して労働させる日数の限度)が「及び」でつなげられています。
この「及び」でつなげられた部分のまとまりは、いわば一定期間における連続労働日数の限度で利用頻度が一番低いものと考えられます。これが「一日及び一週間の労働時間の限度」と並列され、さらに「対象期間における労働日数の限度」と並列されていると理解できます。
この条文では、厚生労働省令で定めることができる事項を規定しているだけなので、階層がどうであろうとも項目がわかれば問題はないと思いますが、なんらかの基準で並べているはずだと考えて条文を読むと、条文が少し違ったように見えてくるかもしれません。
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