監査法人に対する行政処分と会社法対応
東芝の問題によって新日本監査法人に契約の新規の締結に関する業務の停止3か月及び業務改善命令の処分、さらに約21億円の課徴金の納付が命じられたというのは記憶に新しいところですが、経営財務3248号に筑波大学の弥永教授による「監査法人に対する行政処分と会社法」という記事が掲載されていました。
中央青山監査法人の処分時に善意のクライアントに多大な迷惑がかかったことから、その後金融庁から示された考え方では、「契約の新規の締結に関する業務の停止」については、「一般的には、既存の監査契約の更新のように、業容の拡大に繋がらず、かつ当該行為を禁止することにより、善意の被監査会社に与える影響が大きいものについては、禁止の対象には含まれない」とされています。
上場準備作業中で、会計監査人を選任しようとしたところそれができないということで問題となったというような噂も耳にしましたが、このようなケースは業容の拡大に繋がるということなのでしょう。これが事実だとすると、その被監査会社が哀れでなりません。
さて、本題に戻りますが、上記の記事では会社法との関係で以下の点について述べられています。
- 会計監査人の欠格事由
- 監査役等による会計監査人の解任
- 株主総会による会計監査人の解任
- 株主総会による会計監査人の不再任
1.会計監査人の欠格事由
会社法337条3項1号では「公認会計士法 の規定により、第435条第2項に規定する計算書類について監査をすることができない者」が会計監査人の欠格事由として掲げられています。
「契約の新規の締結に関する業務の停止」の行政処分を受けた場合はどうなるのかですが、上記の通り「一般的には、既存の監査契約の更新のように、業容の拡大に繋がらず、かつ当該行為を禁止することにより、善意の被監査会社に与える影響が大きいものについては、禁止の対象には含まれない」という見解が示されていますので、このような行政処分により「会計監査人が地位を失うとか、当該監査法人を再任することができなくなるわけではない」とされています。
2.監査役等による会計監査人の解任
会社法第340条1項では以下のように定められています。
(監査役等による会計監査人の解任)
第三百四十条 監査役は、会計監査人が次のいずれかに該当するときは、その会計監査人を解任することができる。
一 職務上の義務に違反し、又は職務を怠ったとき。
二 会計監査人としてふさわしくない非行があったとき。
三 心身の故障のため、職務の執行に支障があり、又はこれに堪えないとき。
当該規定は「できる」規定なので解任をしなければならないわけではないですが、逆に解任しようとすれば解任できるのかは問題となります(現実問題としては、解約して自らの首を絞めることはありえないと思いますが・・・)。
この点、1号は”会社との関係で「会計監査人が職務上の義務に違反し、または職務を怠ったとき」という意味であるから,他の会社の財務書類の監査において、社員が相当の注意を怠ったことにより、重大な虚偽、錯誤または脱漏のある財務書類を重大な虚偽、錯誤及び脱漏のないものとして証明したことを理由として、行政処分をうけたにすぎない場合”にはこれに該当しないと述べられています。
考えたこともありませんでしたが、他社の粉飾決算を見逃したことは第2号の「会計監査人としてふさわしくない非行があったとき」に該当するというのが昭和56年商法特例法改正時の立法担当官の見解だったというのは興味深い点です。
しかしながら「監査法人が大規模化し、指定社員制度が採用されている現在においては、監査法人自体につき会計監査人としての適格性が疑われることには必ずしもならない」し、金融庁の見解もあるので、行政処分を受けた会計監査人を解任しなかったとしても任務懈怠にはあたらないと述べられています。
3.株主総会による会計監査人の解任
株主総会による会計監査人の解任事由については限定列挙ではないので、他社の監査を巡って行政処分を受けたことを理由として解任することは可能であるし、それは正当な事由にもとづくものと一般的に解されるとされています。
そして金融庁の見解を勘案すれば、監査役等が株主総会の議題として会計監査人の解任を議題としなければならないということはないとされています。ただし、当該監査法人全体が信頼がないという事情があれば、監査役等は解任することを議題として提出することを検討する必要があろうと述べられています。
4.株主総会による会計監査人の不再任
会計監査人の不再任についても、監査役等が、常に、当該会計監査人の不再任及び他の公認会計士または監査法人の選任を株主総会の議題とし、選任議案を提出しなければ任務懈怠にあたるということは行き過ぎと述べられています。
上記3.同様、当該監査法人全体が信頼がないという事情であれば、「不再任及び他の公認会計士または監査法人の選任を議題とし、選任議案を提出することを監査役等としては検討する必要があろう。」とされています。
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