証券会社の年金資産の長期期待運用収益率が0%というのは考えさせられます
平成28年3月期決算において退職給付債務の割引率で0%を採用した会社がどれくらいあったのかを確認していたところ、割引率ではなく長期期待運用収益率を0%としている会社があることに気づきました。
年金資産がほぼ預金ということであればあり得ないことではないですが、長期期待運用収益率が0%というのは何とも寂しい限りです。制度の加入者からすれば、もう少しなんとかしてよという感じだと思いますが、たまたま見つけた事例が例外なのか、そこそこ事例として存在するのかを確認してみることとしました。
その結果、平成28年3月期の有価証券報告書で以下の会社が長期期待運用収益率を0%としていたことが確認できました。
1.丸三証券㈱ (東一・トーマツ)
証券会社で長期期待運用収益率0%というのはどうなの?というところですが、年金資産の構成を見ると大部分が短期投資で構成されており、このような構成であれば期待運用収益率が0%ということもありえるかなと思う一方で、年金資産の約2割が債券での運用されているにもかかわらず、証券会社である同社が「長期」期待運用収益率として0%を採用しているのは暗い気持ちになってしまいます。
2.佐藤商事㈱
同社では平成27年3月期、28年3月期ともに長期期待運用収益率が0.0%とされています。
年金資産の構成は、2期とも現金及び預金が75%、生命保険一般勘定が25%となっています。
現金及び預金の利回りはともかく、生命保険一般勘定の利回りもそんなものなのかなと疑問に思いましたが、年金資産から生じている数理計算上の差異は大きくないので、実際0.0X%というレベルの運用収益率になっているようです。
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ちなみに、同社では平成22年3月期の時点ですでに長期期待運用収益率を0%としており、ずっと0%できているようです。
3.名鉄運輸㈱(名二・あずさ)
同社も平成27年3月期・平成28年3月期ともに長期期待運用収益率が0.0%とされていますが、上記の2社とは以下のように年金資産構成が大きく異なっています。
年金資産80%以上を株式で運用しているにもかからず、長期期待運用収益率が0%というのは、いかがなものかと感じますが、以下のように年金資産の金額自体がそれほど大きくなく、年金資産の期首残高に対する数理計算上の差異の発生額の割合も大きくなっています。
制度への加入者の立場からすれば、リスク資産で運用しつつ長期期待運用収益率が0.0%なら、現金及び預金で保有して欲しいのではないだろうかという気がします。
4.岩崎通信機㈱(東一・あずさ)
岩崎通信機も平成27年3月期・28年3月期ともに長期期待運用収益率が0.0%となっています。
年金資産の構成内容は以下のとおりです。
ほぼ債券で構成されており、年金資産から生じている数理計算上の差異の発生額も大きくはありません。とはいえ、実際には0.5%程度の運用収益はあるように見受けられます。
5.IHI(東一・新日本)
IHIは平成28年3月期に「主として0.0%」と注記されています。IHIの注記が特徴的なのは、以下のとおり平成27年3月期の表示が「-」となっている点です。
0.0%という開示は厳密には0%ではないことを表しているとも考えられますが、IHIの平成27年3月期は確実に0%であったということになります。
ちなみに年金資産の構成を確認したところ約7割が株式で運用されていました。
以上いくつか事例を確認しましたが、長期期待運用収益率を0%としている少数派であるものの30社程度はありそうです。
年金資産の構成によって期待される収益率は異なることあり、期待運用収益率の設定についてはルールはあってないようなものですが、リスク資産の構成割合が比較的高いような場合に「長期」で運用収益率が0%というのは、先行きが不透明な場合に保守的な選択肢ではありますが本当に妥当なのだろうかという気はします。