休憩時間を勝手にずらして取得する社員を懲戒できるか?
労政時報3968号のQ&Aコーナーに「昼食時の店の混雑を避けるため、休憩時間を勝手にずらして取得する社員を懲戒できるか」というものが掲載されていました。
労働基準法上、労働時間が6時間を超える場合においては少くとも45分、8時間を超える場合においては少くとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならないとされており(労働基準法34条1項)、この休憩は原則として一斉に付与しなければならないとされています(同条2項)。
労使協定を締結することで、休憩の一斉付与を適用除外とすることはできますが、効率的な働き方が求められる中で、原則が一斉付与というのは時代遅れな感じもします。しかしながら、一方で工場のライン作業のように一斉に休憩を付与してラインを止めないとならないというようなケースもあるので、労使協定を締結することによって例外的に休憩の一斉付与が認められるとしてしまうと、より制限が加わることに人は反発しますので、休憩を一斉付与しなければ業務上支障が生じるケースでの事務負担が重くなることが予想されます。
そう考えると、時代遅れな感じはしますが、休憩の一斉付与が原則であるというのは仕方がないのかもしれません。
さて、上記のQ&Aの質問は、休憩が12時~13時と定められている会社で、昼時は店が混雑するので休憩を勝手に30分ずらして取得している社員に対して、就業規則違反として注意・指導や軽めの懲戒処分を付し、改善されない場合は懲戒解雇等の重い処分を科すことは可能かというものです。
これで懲戒解雇等の重い処分まで検討してしまうのは厳しい会社だなという感じはしますが、この質問に対する回答として以下の様に述べられていました。
業務への影響の程度等に応じて異なる。実害ある場合は懲戒処分も可能。
回答の根拠を要約すると以下のようになると考えられます。
形式的には就業規則に違反しており、職場規律に違反した行為等として懲戒処分の対象となる根拠はある。一方で労働契約法15条では、使用者が労働者を懲戒する場合、その懲戒処分が、「労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして。客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当である」と認められなければ、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は無効であると定めている。
これを踏まえると、勝手に休憩時間をずらすことによる業務に及ぼした影響がなく、会社に与えた損害がないのであれば、昼食時の店の混雑を避けるためという理由には一定の合理性があり、懲戒処分を基礎づけるような実質的な違法性を見いだすのは困難である。
一方で、自分が休憩時間をずらすことによって、職場を混乱させてやろうというような害意をもっている場合や、その社員が休憩時間をずらすことにより、職場全体業務の非効率化、会社の業績低下をもたらすなどの実害が生じる場合は、単なる規律違反ではなく、実質的な違法性が認められ、懲戒処分する正当な理由が認められる。
結局のところ、その社員が休憩時間を勝手にずらすことによる実害がどれくらいあるのかによるということです。労務管理上は一斉に休憩を与えた方がきちんと休憩時間が確保されているかを管理しやすいという側面もありますが、一斉に休憩を与える必要性は高くないもののなんとなく休憩を一斉に与えているというだけでかえって非効率が生じているということもありますので、そのような場合は改めて検討してみるとよいのではないかと思います。