賃金原資が減少しない場合の就業規則変更の合理性判断
そろそろ平成が終わりますが、労政時報第3971号の「最近の労働裁判例の勘所」という判例解説記事の一つでトライグループ事件(東京地裁 平成30.2.22判決)が取り上げられていました。
このトライグループ事件では、旧来の年功序列的な賃金制度を人事考課査定に基づく成果主義・能力主義の賃金制度に変更した変更後の就業規則が有効と判断されています。
この裁判では、賃金原資の総額が減少する場合としない場合では、就業規則変更の合理性の判断枠組みを異にすると明言されているとのことです。
そして、”賃金原資の総額が減少しない場合、労働者全体で見れば従前と比較して不利益とならず、個々の労働者の賃金の増額と減額が人事評価の結果として生ずるので、「個々の労働者の賃金を直接的、現実的に減少させるのは、賃金制度変更の結果そのものというよりも、当該労働者についての人事評価の結果であるから、前記の労働者の不利益の程度及び変更後の就業規則の内容の合理性を判断するに当たっては、給与等級や業務内容等が共通する従業員の間で人事評価の基準や評価の結果に基づく昇給、昇格、降給及び降格の結果についての平等性が確保されているか否か、評価の主体、評価の方法及び評価の基準、評価の開示等について、人事評価における使用者の裁量の逸脱、濫用を防止する一定の制度的な担保がされているか否かなどの事情を総合的に考慮し、就業規則変更の必要性や変更に係る事情等も併せ考慮して判断すべきである」”とされたとのことです。
賃金制度に手を入れる場合、新制度の下では賃金が低下してしまう従業員をどうするのかという点はかならず問題となり、賃金を低下させないようにするということが多いのではないかと思われますが、上記のような判例がでているのは時代の流れなのではないかと思われます。
この手の判例は、ややもすると賃金原資が変わらなければ大丈夫という部分だけが一人歩きすることがありますが、制度的に恣意的な運用が防止され、昇給、昇格、降給及び降格の結果の平等性が確保されていることが大前提となっているという点には注意が必要です。