ハイブリッド型バーチャル株主総会って何
経済産業省は2019年5月22日に「さらなる対話型株主総会プロセスに向けた中長期課題に関する勉強会とりまとめ(案)」を公表しました。
そしてその中で、”「ハイブリッド型バーチャル株主総会」に係る論点”について整理したとされています。「ハイブリッド型」と仰々しい枕詞がついており、いったいどんなものなのか気になったので内容を確認してみました。
なお、「ハイブリッド型バーチャル株主総会」は、今後より一層対話型株主総会プロセスを志向していく上での中長期的な課題や、株主総会当日のあるべき姿についての議論をすすめるにあたり、株主総会当日の会議体としての側面について議論を深めるための題材として検討されたものとされています。
なお、上記の草案については、意見募集がされており提出期限は2019年7月10日となっています。
まず、「ハイブリッド型バーチャル株主総会」は以下のとおり定義されています。
ハイブリッド参加型バーチャル株主総会及びハイブリッド出席型バーチャル株主総会を併せたもの。そして、「ハイブリッド参加型バーチャル株主総会」は、リアル株主総会の開催に加え、リアル株主総会の開催場所に在所しない株主が、株主総会への法律上の「出席」を伴わずに、インターネット等の手段を用いて審議等を確認・傍聴することができる株主総会をいうとされ、「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」は、リアル株主総会の開催に加え、リアル株主総会の場所に在所しない株主が、インターネット等の手段を用いて、株主総会に会社法上の「出席」をすることができる株主総会をいうとされています。
「ハイブリット型」というと、なんとなく上記でいうところの「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」を想像してしまいますが、単に総会の映像をリアルタイムのネット中継でみれるようなものも含まれるということのようです。これは、当初は参加型のみを対象として検討をすすめようとしたところ、「株主がインターネット等の手段を用いて株主総会を傍聴するような形態も対象として検討するべきといった意見が、複数の勉強会メンバーから出された」ためとされています。
個人的には、参加型でなければ、総会を撮影した動画をみれるようにしているのとあまり変わらないので、検討に含めなくてもよかったのではないかという気はします。
究極的には「バーチャルオンリー型株主総会」というものが考えられますが、「中長期的には、企業と株主との建設的対話の深化のための選択肢の一つとなり得ると考えられるが、現行の会社法下においては解釈上難しい面があるとの見解が示されている」とのことです。
ハイブリッド型バーチャル株主総会の留意事項としては以下があげられています。
確かに上記のようなことはあると思いますが、時間等の理由で総会で全ての質問者の質問に答えているとも限らず、質問は増加しそうですが、総会の場ではなんとなく質問しにくいので質問しないということもあると考えられ、「濫用的な質問」とはいえない質問も多いのではないかと思われます。
また、「事前の議決権行使に係る株主のインセンティブが低下し当日の議決権行使もなされない可能性」も確かにありますが、この草案にも記載されているとおり、親子喧嘩が勃発するなと特殊な要因がなければ、事前に議決権行使結果の趨勢が判明しているのが実情なので、あまり影響はないと思います。
さて、現在の会社法上「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」ができるのかですが、これについては、「開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されていることが必要とされている」ものの、「現行の会社法の解釈において、ハイブリッド出席型バーチャル株主総会を開催することは可能とされている」とのことです。
「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」では、インターネットを活用するため通信障害等が生じた場合はどうなるのかが問題となりますが、この点については、以下のように記載されています。
会社は、会社側の通信障害を防止すべく、自ら又は第三者に委託して、セキュリティ対策やバックアップ等の手立てを講じる必要があると考えられる。会社がこのような手立てを講じないまま、会社側の通信障害が発生し、その結果、バーチャル出席株主が審議又は決議に参加できない事態が生じた場合には、法831条1項所定の決議取消事由に当たると判断される可能性も否定できない。。もっとも、決議を取り消すべきかの最終的な判断に当たっては、様々な個別事情(通信障害の程度や、会社が事前に合理的な対策を講じていたかどうか、バーチャル出席には通信障害のリスクがあることが株主に通知されていたかなど)が考慮される結果、取消しの請求が裁量棄却(法831条2項)されることは十分考えられるし、法解釈しだいでは、そもそも決議取消事由自体が存在しないと解される可能性もあると考えられる。
実際には、このような総会が一般的になれば、それ用のインフラを提供する企業が登場することが予想されるので、この点についてはあまり問題にならないのではないかと思われます。
整理すべき論点としては、株主の本人確認、株主総会の出席と事前の議決権行使の効力の関係、株主からの質問・動議の取扱い、議決権行使の在り方、その他(招集通知の記載方法、お土産の取扱い等)が検討されています。
それぞれ興味がある部分は原文を参照していただくとして、面白いところでは「お土産の取扱い」があります。総会前に電話でお土産があるのかという問合せは結構多かったりするので、総会にとって本質的ではない部分でありながら実務担当者にとっては気になるところだったりします。この点については以下の様に記載されています。
なお、必ずしも法的な論点ではないが、バーチャル出席株主へのお土産の配付の要否という問題がある。リアル株主総会に物理的に出席する株主に配付されるお土産については、交通費をかけて会場まで足を運び来場したことへのお礼と考えられることから、会場へ足を運ぶことなくインターネット等の手段を用いて出席した株主に対してお土産を配らないとしても、不公平ではないと考えられる。
地方の株主が首都圏の会社に総会に出席するためだけにくるのは難しいので、ネットを活用した総会参加の道が開かれるのはよいと思いますが、ネット越しになると人格が豹変するという方もいるので、法的に許容されていたとしても利用を躊躇するという側面は否定できません。とはいけ、匿名性が高いネットの掲示板とは異なり、株主は個人が特定されているため、発言内容がその個人のものであることが明確にされれば、常識的なレベルに収まるのではないかという気もします。
今後はこのような方向へ進んでいく可能性は比較的高いと考えられますので、動向には注意したいと思います。