パワハラ対策義務化の確認(その1)
昨年の働き方改革法関連の改正の一つにパワハラ対策が事業主の義務となったというものがありました。なんとなく確認を後回しにしていましたが、2020年1月15日に「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」が公表されたので、対策として何が必要なのか、あるいは、どのようなことに気をつければよいのかを確認することとしました。
まず、そもそもパワハラ対策の義務化を規定している法律は何なのかですが、これは「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」とう法律で、一般的には略して労働施策総合推進法と呼ばれることが多いようです。
実際法律を確認してみると、令和元年の改正によって、「第八章 職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して事業主の講ずべき措置等(第三十条の二-第三十条の八)」という章が新設されていました。
条文数は多くないですが、条文番号と条文のタイトルだけ記載すると以下の様になっています。
第三十条の二 (雇用管理上の措置等)
第三十条の三 (国、事業主及び労働者の責務)
第三十条の四 (紛争の解決の促進に関する特例)
第三十条の五 (紛争の解決の援助)
第三十条の六 (調停の委任)
第三十条の七 (調停)
第三十条の八 (厚生労働省令への委任)
第八章の条文は上記のとおりですが、従来の第三十三条(助言、指導及び勧告)のタイトルが(助言、指導及び勧告並びに公表)と改正され、第二項が追加されています。この第二項では、第三十条の二(雇用管理上の措置等)第一項及び第二項の規定に違反している事業主に対し、前項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかつたときは、その旨を公表することができるとされています。
要は、勧告を受けたにも関わらず改善されないような場合、企業名が公表されるということになっています。大企業であればそれであっても新人を集めることができてしまいそうですが、それほど規模が大きくない会社にとって、パワハラ等で企業名が公的機関により公表されてしまうと人材の獲得に支障をきたすことが予想されますので、会社としても改めて対応を検討する必要があると考えられます。
それでは、上記の改正法および指針の適用期日がいつからかですが、原則として2020年(令和2年)6月1日とされていますが、中小事業主の場合は、2022年(令和4年)3月31日までは努力義務とされ、同4月1日から強制適用とされています。
とりあえず今回は全体像の把握ということで、指針についても大項目のタイトルを確認しておくと以下の様になっています。
1 はじめに
2 職場におけるパワーハラスメントの内容
3 事業主等の責務
4 事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関し雇用管理上講ずべき措置の内容
5 事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関し行うことが望ましい取組の内容
6 事業主が自らの雇用する労働者以外の者に対する言動に関し行う事が望ましい取組の内容
7 事業主が他の事業主の雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為に関し行うことが望ましい取組の内容
一般的にはパワハラというと企業内部者同士で生じるものが連想されますが、上記の指針では企業内部同士の者に限らず、他の事業主が雇用する労働者などに対して、あるいは他の事業主が雇用する労働者や顧客などからの迷惑行為に対して行う事が望ましい取組の内容についても記載されています。
ただし上記指針で「講じなければならない」という表現が使用されているのは「4 事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関し雇用管理上講ずべき措置の内容」のみで、その他の部分では「努めなければならない」あるいは「努めることが望ましい」という表現にとどまっています。
指針の具体的な内容確認は次回以降とし、最後にパワハラの定義について確認しておくと指針2(1)で以下のとおり定義されています。
職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③の要素をすべて満たすものをいう。
パワハラ対策が義務化されたことにより、従業員がパワハラだと主張するケースが多少増加するのではないかと思われますので、まずはパワハラの定義をしっかり確認しておくことが重要だと思われます。
今回はここまでとします。