期末監査期間の延長を要望する監査人は94%超
日本公認会計士協会は2,018年3月15日付で「期末監査機関等に関する実態調査報告書」を公表しました。
この報告書は、11の監査法人の協力のもと、上場会社 200 社の監査業務についてアンケート結果に基づくもので、このようなアンケートが実施されたのは「 3月決算会社の期末監査の日程は非常に過密となっており、それが監査従事者の過重労働を招き、ひいては監査品質の維持が難しくなっているのではないかと強く懸念」されるので、実態把握を行うためとされています。なお、今回の報告書は昨年12月に中間とりまとめとして公表された結果の最終報告という位置づけとなっています。
報告書は70頁以上にわたるもので、様々な項目のアンケート結果がまとめられていますが、「エグゼクティブサマリー」および「結論」として記載されいる項目は以下の五つとなっています。
1.期末日後の監査日程
期末日後の監査手続きの集中実施期間は、全体平均では14日程度で、被監査会社の規模や決算短信発表時時期によって違いがあることが判明したとされています。
より具体的には図表2-4~2-7で、GW前に決算発表を行っている会社とGW後に決算発表を行っている会社に区分して、連単の監査手続の実施集中日がまとめられています。ある意味当然ですが、GW前に決算発表を行っている会社の単体の手続き集中日が9日(連結は6日、うち3日は単体集中日と重なる)であるのに対して、GW後に決算発表を行っている会社の単体手続き集中日は12日(連結は8日、うち4日が単体集中日と重なる)と、より長くなっています。
また、「法定監査の対象でない決算短信に対する監査人のチェックが幅広く行われている実態があり、その背景には、被監査会社が決算短信公表後に決算数値の修正に応じなくなる傾向があることが示唆された」と述べられています。アンケートをとってみなくても、広く認識されていた事実ではないかと思われますが、会社の立場からすれば、その気持ちはよく分かります。
ただし、GW前に決算発表をするような会社の監査が大変なのはよくわかるので、会社としては短信であんまり頑張らず、最低限の項目にするというような選択をすることも必要ではないかと思います。
2.期末監査期間の延長を要望する割合が94%超
この点については「。期末日後の監査日程の期間については、94%以上の回答者が期間の延長が望ましいと回答した。また、延長への要望は、期末日後の監査日程の日数だけでなく、監査報酬や監査チームに投入される人員資源の状況に対する回答とも関連が見られ、いずれかに制約を感じる場合に、延長への要望がより高い傾向が見られた。」とされています。
日本の企業は大部分が3月決算で、GWがあるにもかかわらず、本決算の決算短信も期末日後45日とされているのを、決算短信は35営業日までに提出すればよい位にすれば、GW後に決算発表している会社の監査は多少時間的にゆとりがでるのではないかと思われます。決算発表が半月くらい遅くなっても、所詮過去の数値なので、実質的にそれほど大きな影響はないのではないかと思われます(ただ、監査がだらだら続くのは吐き気がしますが・・・)。
3.期末日後の監査時間が約3割
この点については、「期末日後に発生する監査時間が、年間を通じて発生する総監査時間の約3割に及ぶ」とされています。また、「近年、監査の深度が深まっており、それに伴い期末監査における作業量も増加している傾向がある」ともされています。
「監査の深度が深まって」いるという点については、監査側だけではなく、被監査会社に対してもアンケートを実施してみてもらいたいところですが、被監査会社の側からすると無駄に細かくなっていると感じることは増えているように思います。
4,監査現場が逼迫していると感じている場合にも、必ずしもその状況を被監査会社の監査役等へ十分伝えていない傾向がある
これについては「本調査からはその理由については明らかにできなかった」とのことですが、普通に考えて、「言っても無駄だから」なのではないでしょうか。偏見かもしれませんが、特に常勤監査役はサラリーマンの延長であることが多く、代表取締役に正面切って異議を唱えられる監査役はそれほど多くないというのが実態のような気がします。そういった意味で、監査役も自分が言えないことを監査人にいってもらうというようなことも多いような気がします。
5.被監査会社の内部統制の不備の程度や、経理担当のリソースの水準と監査時間に関連がある
それはそうだろうというものですが、この点については、「以前から推測されていたものの、統計的な調査によって実際に関連性があることを示した点に意義がある。」とされています。
「軽微な不備」がある会社の平均監査時間は「重要な不備がある」会社の平均監査時間よりも相当長いという結果となっています。「ほとんどない」と「軽微な不備がある」の程度もかなり曖昧ですが、不備が全くないが全体の14.5%にすぎないことを考えると、どうなのかなという気はするものの、サンプリングで監査をする専門家がそう言っているのだから間違いないのでしょう。