内部通報のよる不正発覚割合が減少-JICPA研究資料
2021年7月29日日本公認会計士協会から公表された経営研究調査会資料第8号「上場会社等における会計不正の動向(2021年版)」(研究資料)の概要が経営財務3519号で取り上げられていました。
今回公表された資料は2016年4月から2021年3月に適時開示などで公表された上場会社等の不正を集計したものとなっています。
同資料では、会計不正を財務諸表の利用者を欺くために意図的な虚偽表示を行う「粉飾決算」と従業員によって行われ比較的少額であることが多い「資産の流用」の2パターンに分類し、明確に区分できないものは「粉飾決算」に含めているとのことです。
「資産の流用」は比較的少額であることが多いとされていますが、適時開示等で公表される位の重要性はあるということですので、あくまでここでいう「粉飾決算」との対比でという意味だと考えておくのがよさそうです。
さて、まず会計不正として公表された件数は2021年3月期は前年と比較しておよそ半減しているそうです。半減しているというとなんだかすごいことのように思えますが、過去5年の件数は以下の様に推移しているとのことです。
2017年3月期 26件
2018年3月期 29件
2019年3月期 33件
2020年3月期 46件
2021年3月期 25件
上記の推移からすると、年間30件前後が通常で、2020年3月期の件数が突出して大きかったというのが妥当な解釈ではないかと思います。
そうするとむしろ気になるのは2020年3月期の件数が多かったのは何故かですが、これについては前年の資料を参照しても原因はわかりませんでしたが、会計不正が発生した場所別の件数でみると、2019年3月期と2020年3月期を比較すると本社での発生件数は22件で同数であった一方で、国内子会社が6社から14社へ8社増加、海外子会社が6社から11社へ5社増加しており、子会社での会計不正の発生件数が増加していました。
では2020年3月期と2021年3月期を比較した場合に発生場所別にみるとどのように変化しているかですが、本社が22社から8社と14社の減少となっています。海外子会社は11社から6社へ5社減少、国内子会社も1社減少となっています(本社と子会社の双方で会計不正が発生したようなケースでは双方カウントされているため、上記の社数増減とは一致しない)。
19年3月期、20年3月期は本社での発生件数が22件と大きかったものの17年3月期は14件、18年3月期は12件ですので、それほどおどろく減少ではないのかもしれませんが、一方でコロナウイルス感染症が拡大した中で、十分な監査が行われておらず単に発見されていないだけという可能性も考えられます。これについては、2022年3月期以降の本社での発生件数がどのように変動するのかがポイントとなりそうです。
粉飾決算の手口(種類)について、多いのは収益関連の会計不正となっており、2021年3月期は全体の45.9%が収益関連の会計不正であったとのことです(過去5年間の平均は38.5%)。
会計不正の発覚経路については、「子会社から親会社への事業報告の際に発覚するケース、決算作業プロセスにおいて発覚するケース等、会社が整備・運用している内部統制によって会計不正が発覚するケースが多い」とされていますが、2017年3月期から2020年3月期においては内部通報により発覚するケースが18.4%を占めていたが、2021年3月期においては4.3%に大きく減少しているとのことです。
内部通報による会計不正の発覚についても、リモートワークで作業する人の増加が何らか影響を与えているのではないかという気はするものの、これについても今期はこのままいくとそれほど状況に変化はなさそうですので2023年3月期にどのような数値となるのかに注目したいと思います。