令和5年度税制改正では法人税増税?
T&A master No.912に「与党大綱、R5改正における増税示唆」という記事が掲載されており、副題が「法人税率引上げ、法人の配当課税制度の見直しが検討テーマとなる可能性」となっていました。
あくまで可能性があるというだけではありますが、段階的に引き下げてきた法人税を再び上げるというのはなかなか難しいだろうなと思いつつも、個人的には国が設備投資や賃上げを促したいのであれば、法人税率を引き上げるというのはある意味理にかなっていると思います。
会計上の取り扱いはともかくとして、法人税率を引き上げて設備等の耐用年数を短くすれば、節税効果も考慮して設備等の入れ替えが進む可能性がありますし、DX化を進めたいのであればソフトウェアの耐用年数を短くしたり、ソフトウェアの研究開発費の要件を緩和するなどして投資を促した方が成長する企業が多くでてくるのではないかという気がします。恩恵を受けられるのは、課税所得が生じている会社や、繰越欠損金を期限内に有効に使用できる会社となりますが、課税所得が生じていない会社はそもそも法人税率が何%であっても大きな影響はないはずなので、法人税率の引上げとセットで税制を調整すれば経済全体にとってプラスとなることも考えられます。
ところで、上記の記事において、法人税率の引上げ等が令和5年度税制改正で議論されることになりそうだとされている根拠として、令和4年度税制改正大綱の前文で以下のような記載がなされていることが挙げられています。
近年、企業の前向きな投資や賃上げを促す観点から、法人実効税率の引下げをはじめとする様々な税制上の取組を行ってきた。しかしながら、わが国の賃金水準は、実質的に見て30年以上にわたりほぼ横ばいの状態にあり、その伸び率は他の先進国に比して低迷している。人的資本や無形資産への投資の規模や、設備の経過年齢を見ても、主要国に見劣りする水準にある。その一方で、株主還元や内部留保は増加し続けており、コロナ禍を受けてもその傾向は変わっていない。企業がイノベーションよりも経費削減や値下げに競争力の源泉を求め続けた結果、経済全体として縮小均衡が生じてしまってきた。そのような企業行動の変容をもたらすべく、コーポレートガバナンスの強化や様々な分野における規制改革等と並んで取り組んできた近年の累次の法人税改革も、意図した成果を上げてこなかったと言わざるを得ない。
「近年の累次の法人税改革も、意図した成果を上げてこなかったと言わざるを得ない。」という部分について、上記の記事では「政府側が問題視しているのは、平成27年・28年度改正における法人実効税率の引上げとみられる。この点からすると、令和5年度改正では法人税率の引上げがテーマになる可能性があろう」とされています。
さらに、大綱の前文では「来年以降、経済界の取組状況等も見極めつつ、積極的に未来への投資に取り組む企業に対しては真に有効な支援を行なうとともに、十分な投資余力があるにもかかわらず活用されていない場合に、企業の行動変容を促すためにどのような対応を講ずるべきかといった視点からも、幅広く検討を行う」とされていることをうけ、「内部留保に着目した課税が検討されることも否定できない」とされています。
最近、製品価格が改定され値上げされているものも散見されますが、賃上げしても製品・サービスの価格に転嫁できない(製品・サービス価格を上げた場合の影響が怖い)というケースも多いのではないかと思います。上記の前文では「イノベーションよりも経費削減や値下げに競争力の源泉を求め続けた」とされていますが、経費削減や値下げを実現するにもプロセスイノベーションやサプライチェーンイノベーションが必要だったりしますので、かならずしも「イノベーション」と無縁ではないはずで、「イノベーション」という用語をいいように使いすぎているように感じます。
政府が税制や社会保障などを含めどのようなイノベーションを生み出してくれるのか来年度の税制改正等に注目です。