「労務管理における労働法上のグレーゾーンとその対応」-不利益変更
アマゾンで「労務管理における労働法上のグレーゾーンとその対応(弁護士・野口大著)」をおすすめされて、人事にかかわる者であれば誰もが気になるであろう「グレーゾーン」という言葉に負けて購入してみました(数は少ないですが、アマゾンの書評も好評価だったので)。
同書で取り扱われている主な項目は以下のようになっています。
1.管理監督者
2.パワハラ
3.休職社員の復職
4.問題社員(能力不足・反抗的等)への対応
5.偽装請負
6.事業場外労働
7.仮眠時間等不活動時間の労働時間性
8.営業秘密
9.労働条件の不利益変更
10.雇止め
11.整理解雇
12.子会社の解散等と親会社等の責任
同書では、上記の各項目について、基本的に、原則的な考え方、行政および司法の立場(傾向)、そして企業の対処法が述べられています。時間外労働が絡む事項についての、実務的な対処法としては定額残業代の導入が中心となっており多少期待値を下回りましたが、あらためて勉強になる点も多く一読の価値はあると感じました。
同書で解決策として提案されている定額残業代を導入する場合も問題となる可能性のある不利益変更については、以下のような内容でした。
(1)原則
労働契約法8条に「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる」とされていることから、不利益変更の場合も原則として従業員の同意が必要
(2)留意点
①変更内容を十分に説明する
②真摯に説得すること
③十分な検討期間を与えること
④同意書・合意書をとること
⑤就業規則・賃金規程も同時に変更すること
従業員説明会を開いて、その場で同意書にサインをもらうようなケースも過去ありましたので、個人的には上記③の「十分な検討期間を与えること」は注意が必要だなと感じました。
(3)労働条件の変更に同意しない従業員がいる場合
労働契約法第10条では以下のように定められています。
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。
上記条文の「合理的」が何を意味するのかが「グレーゾーン」であることが、同書で不利益変更が取り扱われている理由となっています。
不利益変更については「賃下げ」の事案が多いということで、野口氏が最近の裁判例から合理的の判断に影響する具体的な要素を以下のようにまとめています(「労務管理における労働法上のグレーゾーンとその対応(野口大著)」151ページ・152ページ)。これはとても参考になるのではないかと思います。
①就業規則の変更によって労働者の受ける不利益の程度について(不利益が小さいほど合理性が認められやすい)
・可能な限り実施まで余裕を持って通知する(生活設計に与えるインパクトを和らげる)
・総額は変えずに分割払いという変更も検討する
・1年とか2年という時間限定で実施する
・年齢等によって減額率を変える(一律の減額率とすると低賃金の者の不利益が大きい)。ただし、その根拠を合理的に説明できるようにすることが重要
②使用者側の変更の必要性の内容・程度(人件費を切り下げる必要性が高くて切迫しているほど合理性が認められやすい)
・銀行等第三者から人件費削減を助言されている
・他の施策(遊休資産の売却、借入、役員報酬の減額等)も可能な限り実行する
・試算表等を作成してシュミレーションし、人件費削減の必要性を具体的に裏付ける
③変更後の就業規則の内容自体の相当性
・賃下げをしたが、同業他社と比較すればまだ高い
④代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況(賃金以外の面で従業員に有利な変更があれば、不利益が緩和されて合理性が認められやすい)
・職務を軽減する
・休日を増やす
・所定労働時間を短くする
・代償措置については、賃下げと同時に実行する(交換条件的色彩を強める)
⑤労働組合等との交渉の経緯
・説明時間、説明回数は多くとる
・可能な限り会社の説明を裏付ける資料も提示する
・労働組合の同意を得ている。ただし、不利益を受ける人の意見が十分考慮されたうえでの労働組合の同意でなければ意味がない
同書では、上記①~⑤の他、「他の労働組合または他の従業員の対応」、「同種事項に関する我が国社会における一般的状況」についても触れられていますが割愛します。
今後このような不利益変更を行わなければならない事案が増えてきそうな気配なので、頭に入れておく必要がありそうです。
日々成長。