従業員が不正に受領したリベートの帰属の帰属-平成24年2月29日仙台地裁判決
今回は前回のエントリに関連して、従業員が仕入先業者から受領したリベートの帰属をめぐって争われた判例についてです。
仙台地方裁判所の平成24年2月29日の判決で、更正処分等取消請求事件です。事案の概要は以下の通りです。
旅館を営むD社において、D社の従業員らが6年間にわたり関係業者から受領していた合計9786万3000円のリベートをD社が雑収入として計上しなかったとして、税務当局が青色申告承認の取消処分を行うとともに、隠ぺい又は仮装したとして更正処分を行ったのに対して、D社はこれらの収益は従業員ら個人に帰属するものであって、仮装隠ぺいを行った事実もないとして各処分の取消しを求めたという事案です。
結論からすれば、この事案ではD社の主張が全面的に認められて処分はすべて取消しとなりましたが、各当事者の主張内容と判旨については以下のようになっています。
1.納税者の主張
①D社では、以前に和食料理長が取引業者からリベートを受領していることが発覚したことがあり、その際にリベート受領を禁止する旨を会社の内外に周知徹底した上で、就業規則にも会社の許可なく職制上の地位を利用して外部のものから金品等のもてなしを不当に受けた時は解雇する旨を規定していた。
②リベートを受領していた元調理部支配人、元料理長などがリベート受領の禁止を明確に認識したうえで、原告に隠れて本件手数料を受領していた。
③D社における食材購入に関しては、指名納入業者による入札制度を実施し、食材納入業者の選定権限はD社代表者及びD社常務取締役に与えられている上、食材購入の代理権も、リベートを受領していた従業員が所属していた調理部調理課ではなく、総務部仕入課仕入係に与えられていた。
④リベートを受領した従業員らおよび取引会社も、③については理解していた。
⑤D社の経営状態は苦しく、役員や従業員の報酬カットを含め、大幅な経費削減を行っており、約9800万円のリベートを当該従業員らに与えられるような状況にはなかった
上記①~⑤からすれば、元従業員らがリベートを受領したからといって、その収益がD社に帰属することはないというべき、というのが納税者の主張です。上記だけ(特に③)をみると、そもそもリベートを受領できていることを矛盾している気がしますが、課税庁の主張で理由がわかりますので、先にすすみます。
2.課税庁の主張
①元調理部支配人は調理部門の責任者として重要な職責を担っており、拡大役員会等にも出席して食材の原価等について自らの判断で発言していたことや、元調理部支配人の移行に従ってD社の加工品がリベートの対象となった食材に採用された結果、D社における入札制度は機能していなかったことからすれば、元調理部支配人は納入業者の選定や価格の決定について広範かつ包括的な権限を有していたといえる。
②取引相手も元調理部支配人およびその後任者である元総料理長の地位や権限を見込んでリベートを支払っていたのであって、その額も約9800万円と高額で、従業員個人が受領する金額としては著しく高額であることからすると、取引会社がD社と継続的に取引を行うための対価として支払ったものに他ならないといえる。
③D社に帰属したリベートを元従業員らが費消して横領したことにより、D社はリベート相当額の損失を被ると同時に、元従業員らに対して、不法行為に基づいて損害賠償請求権を取得することになるから、元従業員らによる横領があった時に対応する課税期間の益金に算入すべきである。
3.判旨
前提として、法人税法11条の趣旨(実質所得者課税の原則)に鑑みれば、本件リベートに係る収益がD社に帰属するか否かの判断にあたっては、リベートを受領した元従業員らの法律上の地位、権限について検討するとともに、元従業員らを名義人として実質的にはD社が本件リベートを受領したいたとみることができるか否かを検討することが相当である、とされています。
そして、D社における食材の仕入れに関しては入札制度が設けられていることや、仕入課仕入係に発注権限が存在しており、調理課に所属するリベートを受領した従業員らには食材の発注権限がないことからすれば、これら従業員がD社から食材の仕入れに属する権限を与えらえれていたとは認められないとしています。
そうすると、元従業員らは個人の法的地位に基づいてリベートを受領したと認められるところ、自己の判断で当該リベートを費消したというのであるから、元従業員らがD社の単なる名義人としてリベートを受領していたとは認め難く、当該リベートがD社の収益に帰属するとは認められないとされています。
さらに、リベートの一部がD社の備品等の購入に充てられていたという事実があったそうですが、この点については、備品を購入するという行為はD社の指示なく行われたものであって、元従業員らに帰属したリベートの使途を自ら決定したことによるもので、D社の利益になった部分があるとはいえ、元従業員らを名義人としてD社がリベートを受領したということはできないとされています。
この判例からする、従業員の不正が発覚した場合であっても内部統制等がある程度整備されていれば、課税庁の処分が下されても対抗できる可能性があるといえそうです。とはいえ、従業員の不正に会社が関与していないという立証をするのもかなり手間だと思いますので、J-SOX対応のためだけの内部統制ではないという認識を持つことが必要なようです。
上記は地裁の判決で、継続して高裁で争われているのかが定かではありませんが、今後の動向には注意が必要です。
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