国税通則法の改正による税務調査手続の明確化(その3)
随分期間が空いてしまいましたが、”国税通則法の改正による税務調査手続の明確化(その2)”の続きです。
今回は「事前通知」に関連する事項について確認します。従来から通常の税務調査の場合は事前に連絡があったので、実務的に大きな影響がある内容ではないと考えられますが、「事前通知を要しない場合」についても定められていますので、知っておいて損はない内容だと思います。
事前通知(通則法74条の9①)
税務調査担当職員が実地の税務調査を行う場合には、原則として調査の対象となる納税義務者及び税務代理を委任された税理士の双方に対して、「あらかじめ」一定の事項を通知することになっています。
一定の事項として定められているのは、以下のとおりです。
- 質問検査等を行う実地の調査を開始する日時
- 調査を行う場所
- 調査の目的
- 調査の対象となる税目
- 調査の対象となる期間
- 調査の対象となる帳簿書類その他の物件
- その他調査の適正かつ円滑な実施に必要なものとして政令で定める事項
そして、通知の方法については調査事務運営方針において「調査開始日前までに相当の時間的余裕をおいて、電話等により」とされているので、必ずしも書面で届くものではありませんが、「相当の時間的余裕」が確保されるはずという点も覚えておくとよいでしょう。
なお、従来は、税務調査の日程につき会社に連絡が来る前に、顧問税理士(税務代理人)と税務署間でやりとりがなされることがありましたが、国税通則法の改正により、納税義務者が事前通知の詳細に関して、税務代理人を通じて通知して差し支えない旨の申立を行った場合には、納税義務者には実地調査を行う事のみを通知し、その他の事項については税務代理人を通じて通知することとされています(手続通達7-1、7-4)。
事前通知を要しない場合(通則法74条の10)
事前の通知が不要とされるのは、税務調査担当職員が保有する情報等から「違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれその他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合」です。
簡単に言えば、事前に通知すると課税を逃れようと画策する可能性が極めて高い納税者ということになると思います。
「違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれ」については、手続通達4-9において以下のようなケースが例示されています。
- 事前通知をすることにより、納税義務者において、次に掲げる行為を行うことを助長することが合理的に推認される場合
- 調査担当職員の質問に対して答弁せず、もしくは偽りの答弁をし、又は検査、採取、移動の禁止もしくは封かんの実施を拒み、妨げ、若しくは忌避すること
- 物件の提示又は提出の要求に対し、正当な理由がなくこれに応じず、又は偽りの記載若しくは記録をした帳簿書類その他の物件(その写しを含む。)を提示し、若しくは提出すること
- 事前通知をすることにより、納税義務者において、調査の実施を困難にすることを意図し逃亡することが合理的に推認される場合
- 事前通知をすることにより、納税義務者において、調査に必要な帳簿書類その他の物件を破棄し、移動し、隠匿し、改ざんし、変造し、又は偽造することが合理的に推認される場合
- 事前通知をすることにより、納税義務者において、過去の違法又は不当な行為の発見を困難にする目的で、質問検査等を行う時点において適正な記帳又は書類の適正な記載と保存を行っている状態を作出することが合理的に推認される場合
- 事前通知をすることにより、納税義務者において、その使用人その他の従業者若しくは取引先又はその他の第三者に対し、上記(1)から(4)までに掲げる行為を行うよう、又は調査への協力を控えるよう要請する(強要し、買収し又は共謀することを含む。)ことが合理的に推認される場合
また、「その他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」があると認める場合については手続通達4-10で以下のケースが例示されています。
- 事前通知をすることにより、税務代理人以外の第三者が調査立会いを求め、それにより調査の適正な遂行に支障を及ぼすことが合理的に推認される場合
- 事前通知を行うため相応の努力をして電話等による連絡を行おうとしたものの、応答を拒否され、又は応答がなかった場合
- 事業実態が不明であるため、実地に臨場した上で確認しないと事前通知先が判明しない等、事前通知を行うことが困難な場合
上記からすれば、「事前通知」がないのは稀なはずです。普通にやっていれば、事前に通知がなされないことはないといえそうです。
日程調整
国税通則法74条の9第2項では、「納税義務者から合理的な理由を付して」調査日程の変更の求めがあった場合には、「協議するよう努めるものとする」とされています。
「しなければならない」ではなく「う努めるものとする」と努力規定ではありますが、基本的に税理士任せとしても日程については交渉の余地があるという点くらいは記憶しておいたほうがよいと思います。
ここで「合理的な理由」とは何かが問題となりますが、この点については手続通達4-6で以下のようなケースが例示されています。
よって業務上、その日程は厳しいという場合は積極的に交渉してみるのがよいと思います。