消費税経過措置の取扱いQ&A問4の疑問点
T&A master No508(2013年7月22日号)に税理士の熊王征秀氏が「税率の引き上げと工事の請負等の経過措置(1)」という記事を書いていました。
その中に「経過措置の取扱いQ&A問4との関係とその疑問点」について述べられており、参考になりそうなので紹介します。
まずQ&A問4の内容を確認しておくと、以下のようになっています。
(施行日を含む1年間の役務提供を行う場合)
問4 平成 26 年3月1日に、同日から1年間のコピー機械等のメンテナンス契約を締結するとともに、1年分のメンテナンス料を受領した場合、消費税法の適用関係はどのようになりますか。【答】
役務の提供に係る資産の譲渡等の時期は、物の引渡しを要するものにあってはその目的物の全部を完成して引き渡した日、物の引渡しを要しないものにあってはその約した役務の全部を完了した日とされています(基通9-1-5)。
照会の役務の提供は、物の引渡しを要しないものですから、資産の譲渡等の時期は役務の全部を完了する日である平成 27 年2月 28 日となります。
したがって、施行日以後に行う課税資産の譲渡等となりますから、原則として新消費税法(新税率)が適用されます。
ただし、契約又は慣行により、1年分の対価を収受することとしており、事業者が継続して当該対価を収受したときに収益に計上しているときは、施行日の前日(平成 26 年3月 31日)までに収益に計上したものについて旧消費税法(旧税率)を適用して差し支えありません。
このQ&A4に対する疑問点として以下の点が検討されています。
- 消費税法基本通達9-1-5の当てはめは妥当か?
- 未経過期間分のメンテナンス料を役務収益に計上することは妥当か?
- 前受収益を役務収益に計上し、旧税率を適用することは妥当か?
消費税法基本通達9-1-5の当てはめは妥当か?
消費税法基本通達9-1-5では以下のように述べられています。
(請負による資産の譲渡等の時期)
9-1-5 請負による資産の譲渡等の時期は、別に定めるものを除き、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の全部を完了した日とする。
また、法人税法基本通達2-1-5(請負による収益の帰属の時期)でも同様のように述べられています。
そこで、Q&A4で取り上げられているようなメンテナンス契約については、そもそも契約期間満了時に収益および消費税を計上すればよいのか?という点が問題となります。
この点については、「メンテナンス契約のように、役務提供が不規則かつ断続的に行われるような役務の提供については、期間の経過に応じて役務収益(課税売上)を認識すべきではないかと考えている」とされています。
理由としては、メンテナンス契約のように、役務提供が不規則に継続するような役務提供にまで、この通達を適用すると契約期間が3年である場合、3年間売上を計上しなくてよいことになってしまうが、会計基準とのバランスを考えてみても、これは不合理であるためとされています。
未経過期間分のメンテナンス料を役務収益に計上することは妥当か?
会計的には未経過期間分を売上計上してはならないというのが一般的ですが、「法人税の世界では、所得金額の計算において、返還不要となる収入は確定収入として認識し、実際に収受した日の属する事業年度の収益として計上することとされているようである。」とし、「しかし、筆者の確認した限りでは、そのことを明記した通達は法人税にも消費税にも存在しない」と述べられています。
未収収益の定義に該当するものを繰延べるというのは企業会計原則で当然の会計処理なので、筆者も「企業会計における費用収益対応の原則を考慮した場合にも、未経過期間分の前受収益は翌期に繰り述べて法人所得や消費税の課税売上を認識すべきではないだろうか?」と述べています。
前受収益を役務収益に計上し、旧税率を適用することは妥当か?
これは、そもそもQ&A4の取扱いが妥当なのかという点について述べられています。つまり、本来であれば前述のとおりメンテナンス契約の未経過部分については期間に応じで収益認識するのが妥当と考えれるところ、Q&A4では、代金受領時に継続して収益認識していることを条件に、経過措置ではなく単純に旧税率の適用を認めることとされていますが、Q&A26においてはメンテナンス契約など役務の全部が一括して行われるものでないものについては経過措置の対象とならないと述べられていることとの整合が取れていない点が指摘されています。
さらに消費税法基本通達9-1-20(賃貸借契約に基づく使用料等を対価とする資産の譲渡等の時期)で述べられている処理法とは整合するものの、そもそも事務機器のメンテナンスは役務の提供であり資産の貸付けではないので、この通達を準用することは適当ではないと述べられています。
というわけで、平成26年4月1日以降の未経過相当分(前受収益)については、新税率を適用するのが妥当ということになるようです。
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