満期特約型仕組み預金(マルチコーラブル預金)の会計処理等
今回は満期特約型仕組み預金(マルチコーラブル預金)の会計処理についてです。
この預金は「仕組み預金」と呼ばれていることからわかるとおり、デリバティブが組み込まれた預金となっています。そのため、同会計処理するのかが問題となります。
「その他の複合金融商品(払込資本を増加させる可能性のある部分を含まない複合金融商品)に関する会計処理(企業会計基準適用指針第12号)」では、「複合金融商品に組み込まれたデリバティブは、次のすべての要件を満たした場合、組込対象である金融資産又は金融負債とは区分して時価評価し、評価差額を当期の損益として処理する」(3項)として以下の三つの要件が掲げられています。
- 組込デリバティブのリスクが現物の金融資産又は金融負債に及ぶ可能性があること
- 組込デリバティブと同一条件の独立したデリバティブが、デリバティブの特徴を満たすこと
- 当該複合金融商品について、時価の変動による評価差額が当期の損益に反映されないこと
満期特約型仕組み預金(マルチコーラブル預金)の場合、上記2と3の要件は満たしますが、1の要件を満たさないため「すべて」の要件を満たすことにならないため区分処理は不要ということになります。
ここで「組込デリバティブのリスクが現物の金融資産又は金融負債に及ぶ可能性がある」とは、「原則として、組込デリバティブのリスクにより現物の金融資産の当初元本が減少又は金融負債の当初元本が増加若しくは当該金融負債の金利が債務者にとって契約当初の市場金利の2倍以上になる可能性があることをいう」(5項)とされています。
満期特約型仕組み預金(マルチコーラブル預金)の場合、満期や適用される金利が変動する可能性があり、市場金利の変動によっては預金者に機会損失が生じる可能性はありますが、満期まで保有することによって名目上の元本は返済を受けることができます(ないとは思いますが、仮に金利がマイナスになるのであれば話は別です)。したがって、「金融資産の当初元本が減少」するリスクはなく、この要件は満たさないということになります。
上記のとおり、会計処理としては通常の定期預金と同様となりますが、デリバティブを内包した金融商品であるため金融商品の時価開示の注記には影響があります。
事例を検索してみると、以下のようなものがあります。
1.(株)ディスコ 2013年3月期
(4) 長期預金
長期預金は、中途解約しない限り元本が保証されており、かつ、利率がマイナスとならないデリバティブ内包型預金(マルチコーラブル預金)であり、その時価は取引金融機関の組込デリバティブ時価評価額をもとに一体処理した金額によっております。
そもそも、マルチコーラブル預金が検索にひっかかる件数自体が少ないのですが、金融商品の時価開示の部分にのみ記載があるのが一般的です。
一方で北越紀州製紙㈱の2013年3月期の有価証券報告書では以下のような記載がありました。
2.北越紀州製紙㈱ 2013年3月期
まず、金融商品関係の「(2) 金融商品の内容及びそのリスク」において「長期預金はデリバティブ内包型預金(マルチコーラブル預金)であり、当社から中途解約を申し入れた場合に中途解約清算金を支払う義務が発生するリスクがあります。デリバティブ取引は、・・・(中略)。また、デリバティブ内包型預金(マルチコーラブル預金)を保有しております。」という記述がされています。
そしてデリバティブ取引関係の注記では以下のように記載されています。
同社の2012年3月期の有価証券報告書では、金融商品の時価開示とデリバティブ取引関係の両方に記載がありましたが、2013年3月期からは、「金融商品の内容及びそのリスク」の定性的な記述を除いては、デリバティブ取引関係の注記のみとなっています。
2012年3月期の記載からすると、評価損益をPLに計上しているということではないようですが、このような注記方法もあります(日東精工㈱2012年12月も同様)。組み込みデリバティブを一体処理したとしても、デリバティブはデリバティブだと考えるのか、一体処理しているのだからあえてデリバティブ取引関係の注記として開示するまでもないと考えるのかの違いと考えられます。
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