当然といえばそれまでですが、税額増加に同意を得ずに申告した税理が敗訴
T&A MasterNo.535に”税理士の訴訟トラブル、最近の税賠事例から見る注意点”という記事が掲載されていました。
ここで紹介されていた事案は歯科医の保険診療報酬にかかるものでした。まず、
保険診療報酬=国保や社保支払基金が負担する部分+患者が窓口で負担する部分
という関係にあります。「患者が窓口で負担する部分」というのが、会社員であれば通常3割負担と言われている部分です。
したがって、保険診療報酬と患者の負担割合がわかれば、保険診療報酬から「患者が窓口で負担する部分」の理論値を計算することができます。というよりも、普通に考えるとこの理論値=窓口で実際に患者から受け取った金額となるはすです。
ところがこの事案では、保険診療報酬から計算した理論値よりも窓口で患者から受領した金額が少ない状態にありました。そして、同歯科医の顧問税理士の職員は、上記の関係が成立しなければおかしいと考えて納税者の同意を得ずに「差額部分を窓口収入(売上)に加算する」処理を行った上で、納税者の所得税確定申告書を作成しました。
納税者は、この差額を調整したことにより本来納付する必要のない所得税などを納付させられたとして過払いとなった所得税約100万円の損害賠償を求める訴訟を税理士に対して提起しました。
結果的に、裁判所は納税者の訴えを認め、税理士に対して納税者が過大に納付した所得税相当額の支払が命じられました(控訴中)。
裁判所は、税理士事務所の職員が、納税者の窓口収入について、保険診療報酬から計算した理論値により算定された金額を決算書に記入し、事業所得を算出した事自体をもって、これが税務申告書上不適切であったとか、税理士としての善管注意義務に反する処理方法であったとはいえないとしつつも、税務申告として不適ではない(妥当)と認められる場合であっても、それを行わなかった場合に税額が増加することが予想される場合には納税者に説明し同意を得るべきと指摘しました。
そして、税理が納税者の委任事務を処理する義務を尽くしたとは到底認められないとして、納税者の損害賠償請求を認めました。
税理士法第1条には税理士の使命として「税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそつて、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。」と定められています。
この事案の税理士事務所の職員は「独立した公正な立場」から「納税義務の適正な実現」をめざしたとも考えられ、そういった意味では少し酷な気はします。
しかしながら、報酬は納税者が負担している以上、理論値と差額が生じているのであれば納税者に確認するくらいはすべきですし、認められるのかは定かではありませんが、ベースとなった保険診療報酬額は正しく、価格を安くして近隣歯科医との競争に勝つため窓口負担を安くしていたということもあり得るのではないかと考えられます。仮にこのような処理が認められるのであれば、納税者が「本来納付する必要のない所得税などを納付させられた」と主張するのも頷けます。
たった一言、「何故理論値と差額が生じているのですか?」と聞いていさえすれば、このような事態は避けられたのではないでしょうか。
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