グループ法人税(その6)-寄付金
今回は、グループ法人税制における寄付金の取扱いについてです。
完全支配関係にある法人間で寄付金として扱われる金銭その他経済的な利益の贈与又は無償の供与が行われた場合の、改正後の取り扱いは以下の通りです。ただし、支出法人も受領法人も内国法人である場合に限ります
1.支出した法人
寄付金の算入限度額にかかわらず、全額が損金不算入(社外流出)となる。
2.受領した法人
受贈益の全額が益金不算入となる。
要は、グループ間の取引なので一方で全額損金不算入にしたこととバランスをとって受領側では全額益金不算入としていることです。
支出側で全額損金算入、受領側で全額益金算入というやり方も考えられますが、そうしてしまうとグループ間で所得の移転や付け替えが容易に行えてしまうため採用されなかったようです。
ところで、グループ会社間での寄付金(特に親会社から子会社への寄付)は、資産の低廉譲渡や業績が悪化している子会社への支援という形で行われることがほとんどではないかと思います。
<資産の低廉譲渡>
資産の低廉譲渡については、低額譲渡があったことを理由に直ちに寄付金として取り扱われるわけではありませんが、経済的実質に着目して「実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額」は寄付金として取り扱われることになりますので、判例等を参考に検討が必要になります。
なお、仮に低廉譲渡が寄付金に該当しない場合であっても、譲渡損益調整資産の要件(例えば簿価1000万円以上の有形固定資産)を満たすものについては、譲渡損益の調整が必要になります。
<子会社支援>
債権放棄や、無利子又は低利率での貸付をした場合、通常は「実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額」があるものとして、寄付金として取り扱われるのが原則となります。
一方で、親会社は子会社を清算するかどうかを決定できる立場にあり、仮に子会社の整理を行った場合には、債権放棄しなくても貸倒損失として損金算入が認められることになるため子会社支援の場合の債権放棄等と寄付金の取扱いについての何らかの調整が必要となります。
この点について、実務上は法人税基本通達9-4-1、9-4-2を参考に処理がされていたのが通常だと思います。
少し長くなりますが、参考までに法人税基本通達9-4-1、9-4-2を以下に記載しておきます。
(子会社等を整理する場合の損失負担等)
9-4-1 法人がその子会社等の解散、経営権の譲渡等に伴い当該子会社等のために債務の引受けその他の損失負担又は債権放棄等(以下9-4-1において「損失負担等」という。)をした場合において、その損失負担等をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ずその損失負担等をするに至った等そのことについて相当な理由があると認められるときは、その損失負担等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとする。(昭55年直法2-8「三十三」により追加、平10年課法2-6により改正)
(注) 子会社等には、当該法人と資本関係を有する者のほか、取引関係、人的関係、資金関係等において事業関連性を有する者が含まれる(以下9-4-2において同じ。)。
(子会社等を再建する場合の無利息貸付け等)
9-4-2 法人がその子会社等に対して金銭の無償若しくは通常の利率よりも低い利率での貸付け又は債権放棄等(以下9-4-2において「無利息貸付け等」という。)をした場合において、その無利息貸付け等が例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくものである等その無利息貸付け等をしたことについて相当な理由があると認められるときは、その無利息貸付け等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとする。(昭55年直法2-8「三十三」により追加、平10年課法2-6により改正)
(注) 合理的な再建計画かどうかについては、支援額の合理性、支援者による再建管理の有無、支援者の範囲の相当性及び支援割合の合理性等について、個々の事例に応じ、総合的に判断するのであるが、例えば、利害の対立する複数の支援者の合意により策定されたものと認められる再建計画は、原則として、合理的なものと取り扱う。
上記の基本通達があるものの、「今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると認められるため」というのは具体的にどの程度の状態なら認められるのか等は、その都度判断が必要とされ神経を使う部分だと思いますが、前述のとおり、グループ法人税制によって完全支配関係にある法人間では、支出法人は全額損金不算入、受領法人では全額益金不算入となったことによりこのような場合の処理が簡便になったと言えます。
<子会社から親会社への寄付金>
子会社から親会社への寄付金があった場合の考え方については、注意が必要です。
つまり、利益又は剰余金の分配には、法人が剰余金又は利益の処分により配当又は分配をした者だけでなく、株主等に対してその出資者たる地位に基づいて供与した一切の経済的利益を含むものとして取り扱われる(法人税法基本通達1-5-4)ことから、子会社から親会社(株主)に対して行われた経済的利益の移転は寄付金ではなく配当として取り扱われることになります。
親会社から子会社への経済的利益の移転は、子会社が株主ではないので寄付金として取り扱われる点と大きく異なるため注意が必要と思われます。
<適用対象法人等>
寄付金が支出法人において損金不算入、受領法人において益金不算入になる要件は以下の通りです。
①支出法人も受領法人のいずれも内国法人であること
②法人による完全支配関係であること
②について逆に言えば個人による完全支配関係の場合は適用がないことを意味します。
法人に限られているのは、例えば自然人たる親子(親:甲、子:乙)がそれぞれ100%の株式を保有するA社、B社を完全支配しているような場合、甲と乙は同族関係者(一の者)なのでA社とB社は完全支配関係があるということになりますが、この場合に支出法人の損金不算入、受領法人の益金不算入を認めると、法人で課税されないため実質的に親から子への財産の移転が行えてしまうことになるためだと考えられます。
<寄附修正事由>
なにやら面倒な名前ですが、P社を親会社として完全支配関係にある子会社A社から子会社B社に寄附が行われた場合、P社が保有するA社株式の価値は減少し、B社株式の価値は増加することになります。
したがって、上記の例でいえば、P社のおけるA社株式およびB社株式の税務上の簿価を調整する必要があります。申告書の書き方については税理士さんに確認するとして、とりあえずの理解としては、この程度でいいのではないかと思います。
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