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休職制度と労働法(その2)

休職制度と労働法(その1)の続きです。

3.休職の成立

「休職制度と労働法(その1)」の冒頭の例では従業員が休職を申し入れるという設定になっていましたが、そのエントリの中で記載した就業規則例の文言(一部)は以下のようになっていました。

<就業規則の規定例(一部)>

「社員が次の各号の一に該当するに至ったときには,その翌日から期間を指定して休職を命ずる。」

最後が「休職を命ずる」となっており、このような定め、あるいは「・・・休職を命ずることがある」、「・・・休職させることがある」というような会社側に裁量を与えるような規定が多いように思います。

つまり、実態としては労使間の合意といえる場合もありますが、形式的には会社が従業員に対して休職を命ずるという形をとることになるのが一般的だと考えられます。

前回記載のとおり、休職制度の本質は解雇猶予制度であるため、復職が前提となった制度です。したがって、本来であれば就業規則で定められた休職期間内に傷病が治癒して労務提供できる状態に戻る蓋然性があるかどうかを判断し、休職扱いとするか解雇(ないし自主退職)とするかを判断するのが理論的ということになります。

しかしながら、実際にはそのような検討がなされることなく休職を認めているのが一般的だと思いますので、復職がほぼ確実にあり得ないというような状況になければ解雇ないし自主退職の前に休職を経由するのが無難な取扱いとなる

といえます。

就業規則で定められていることの多い類型別に休職の成立要件を確認します。

①傷病休職

傷病休職の場合は、労働者の傷病が休職事由に該当するかが問題となります。前述の就業規則例でいえば、例えば「連続欠勤が3カ月に達した」、「特別の事情があり休職させることを適当と認めた」というような要件に該当するかどうかが問題となります。

特に「特別の事情があり休職させることを適当と認めた」というような要件で休職を命ずる場合は、休職により労働者は賃金を受け取ることができなくなるという不利益を受けることになるので、通常勤務に相当程度支障をきたすことを要すると解されている点には注意が必要です。

例えば、パソコンを使用することが必須のオフィス労働者(右利き)が左腕を骨折し、左手がしばらく使えないという状態になったとします。この場合、右手だけでの作業では作業効率が低下するのは明らかです。

しかしながら、この状態が「通常勤務に相当程度支障をきたす」といえるのかについては一概にはなんとも言えません。通常のオフィス労働者であれば、「相当程度支障をきたす」とまでは言えないように思いますが、タイピストやパンチャーであればやはり処理量が著しく減少する場合には「相当程度支障をきたす」と言えるのではないかと考えられます。
さらに、従来の担当業務であれば「相当程度支障をきたす」としても、一時的に他の業務へコンバート可能かどうかも考慮すべき要素になると考えられます。

上記のとおり休職は、就業規則の定めによって会社(使用者)が労働者に命ずるという形式をとることが多いですが、労働者から休職の申し入れがあった場合に会社は休職を認めなければならないのかが問題となります。
この点、「傷病休職事由が発生すれば休職を行うとの規定がある場合は、使用者は休職を承認する義務を負うが、使用者に裁量を与える規定がある場合は休職付与義務は否定」されます(「労働契約法」土田道夫 著)。

したがって、前回の冒頭で繁忙期に骨折した従業員の休職については、休職を認める必要があると考えられます。使用者側からすると、納得できないこと部分もあると思いますが、その部分は人事評価で対応するということになると思います(もっとも、あまりにも厳しい処遇としてしまうと余暇を楽しめないことになりかねず従業員のモチベーションが低下してしまうことは言うまでもありません)。

上記の就業規則例のように「期間を指定して休職を命ずる。」という規定になっていれば要件に該当すれば会社は休職を命じなければならならないと考えられますが、「休職を命ずることがある」というような規定であれば労働者からの休職を承認する義務はないものと考えられます。
仮に休職させる義務を負わない場合であっても、休職させずに解雇することは解雇権の濫用となる可能性があるので承認義務がないからといって直ちに解雇できるということではない点に注意が必要です。

②起訴休職

業規則では、「刑事事件に関して拘留又は起訴され,休職させることを適当と認めたとき」というような休職事由が規定されることが多いようです。

しかしながら、通説・判例では、起訴の事実だけを持って休職とすることはできず、以下のような要件が必要としています。

1)起訴によって企業の対外的信用が失墜し、職場秩序に支障が生ずるおそれがあること

あるいは、

2)労働者の勾留や公判期日出頭のために労務の継続的給付や企業活動の円滑な遂行に支障が生ずるおそれがあること

刑事裁判上、有罪確定までは無罪の推定が働くので、上記のような事情が加わることによって、賃金不支給と言う労働者が被る不利益を考慮しても会社に休職を命ずることを認めるのが妥当ということになります。

③事故欠勤休職

事故欠勤休職は、就業規則等で定められた休職期間が傷病休職よりも短いことが多いですが、一方で休職期間満了後により自動解雇となるような規定であることが多いため、解雇規制の回避手段とならないように解釈する必要があります。

例えば、事故欠勤退職の休職期間が2週間とされており、2週間経過後復職できなければ自動解雇という制度が有効としてしまうと、本来普通解雇であれば30日前の予告等の手続きが必要なところ2週間で解雇できてしまうということになってしまいます。

また、休職期間が十分だとしても、休職期間満了=自動退職という場合には、休職が解雇と同じ機能を有するため、解雇に準ずる相当性が必要となると考えられます。事故欠勤休職は、上記の起訴休職に比べて、社会的に非難の程度が軽いと考えられるため、起訴休職よりも要件は厳しく判断すべきということになるため、起訴休職で示した要件は「おそれがあること」ですが、事故欠勤休職の場合は「実害があること」が必要となると考えられます。

④自己都合休職

自己都合休職の場合は、会社側に裁量を認めるような規定になっているのが一般的だと思います。自己都合休職が明言されていない場合であっても、「特別の事情があり休職させることを適当と認めたとき」というような会社側の裁量で休職を命ずることができる項目の一つとして運用されているものと思います。
したがって、自己都合休職の場合は、基本的に会社の裁量によりますが、就業規則等で基準が明示されているような場合は、休職を承認しなければならないということもあり得ます。

<休職規定がない場合>

ここまでは、基本的に就業規則に休職についての定めがあるケースを想定していましたが、休職規定がない場合はどうなるのかが問題となります。つまり、私傷病による欠勤が長期にわたる労働者を、即時解雇できるのかという問題です。

この点、休職規定がない場合であっても、有効に労働者を解雇するためには、単に就業規則上の解雇事由に形式的に該当するというだけでは足りず、当該企業の規模や業種、雇用形態、解雇の手続き等を考慮して、その解雇が社会的に相当と認められることが必要となります。

休職期間が満了した時の問題点については次回以降にします。

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