休職制度と労働法(その3)
今回は、「休職制度と労働法(その2)」の続きで、休職が終了した時の取扱いについてです。
4.休職の終了
休職は、休職期間が終了し、または休職事由が消滅することによって終了します。したがって、労働者の立場からすれば、期間内に休職事由が消滅していれば復職できますが、逆に休職事由が残ったまま休職期間を経過してしまうと普通解雇又は当然退職となってしまうということになります。
普通解雇となるか「当然退職」となるかは会社の就業規則の規定によります。「当然退職」は、労働契約の一種の自然終了事由を意味し、解雇の場合のような意思表示等の手続きは法的には不要となります。
ただし、実務上は「当然退職」であっても、(少なくとも口頭では)労働契約終了の通知を労働者に行っているのが普通だと思います。もっとも電話で連絡しているということもあるので、できるだけ書面で通知したほうがより望ましいと言えます。
さらにいえば、できるだけ「退職届」を書いてもらうほうが望ましいと考えられます。会社の立場からすると、概ね入手可能という感じがします。仮に、入手できないケースが多い場合は、労働者が休職は会社のせいだという意識が強いことがあるので、会社は(休職していない)労働者との関係を見直したほうがよいと思われます。
一方で、休職期間終了時に普通解雇となる場合は、通常の解雇とどうよう解雇予告等の手続きが必要となります。したがって、会社の立場からすれば、休職期間終了時に復職事由が認められない場合は、「当然退職」とするような就業規則にしておく方がよいものと考えられます。
1)傷病休職における「治癒」とは
休職事由の大部分を占めると考えられる傷病休職の場合、職場に復職できるか労働契約の終了となるかは、休職期間満了までの間に私傷病が「治癒」するかどうかにかかっています。
したがって「治癒」とはどういう状態をいうのかが非常に重要になります。
休職制度の本質は解雇猶予制度であることからすれば、原則としては、労働者が健康な状態に戻り、休職前に行っていた業務を支障なく遂行できる状態を意味することになります。
しかしながら、休職前に行っていた業務で復職することができなくても、「当初は軽易な職務に就かせれば、ほどなく従前の職務を通常に行うことができると予測できるといった場合には、復職を認めるのが相当である」(独立行政法人N事件 東京地判 平成16年3月26日 労判876-56)というような判例があるため、休職前の業務がこなせないからといって直ちに復職を認めないとするのはリスクがあるという点に注意が必要です。
もっとも精神疾患の場合は、「ほどなく従前の職務を通常に行うことができると予測できる場合」に該当するかの判断は困難です。したがって、精神疾患の場合は、究極的(争いも辞さないという場合)には「労働者が健康な状態に戻り、休職前に行っていた業務を支障なく遂行できる状態」かどうかで復職の可否を判断するが、実務的にはメンタルヘルスの取り組みの一環として復職支援プログラム等を設定し対応するということになるものと考えられます。
2)職種(ゼネラリストかスペシャリストか)と「従前の職務」の関係
最近の裁判例(片山組事件等)では、労働契約において職種が限定されていない場合は、休職以前に従事していた職務への復帰が困難としても、現実に配置可能な業務があればその業務に配置すべきものと解して、復職可能性を緩和する傾向にあります。
逆に言えば、スペシャリスト(職種を特定して採用された労働者)は業務が特定されているので、その業務が支障なく遂行できる状態になっているかどうかが復職の条件となります。
カントラ事件(大阪高裁 平成14.6.19判決)では、職種を特定して雇用された労働者が、従前業務を通常の程度に遂行できなくなった場合は、原則として、労働契約に基づく債務の本旨に従った履行の提供はできない状況にあると解されるとされています。
とはいうものの、事務職系のスペシャリストの場合も、労働者の希望や給与水準をどうするかという問題はありますが、できるだけ配置転換等で対応し原職へ復帰してもらうのが望ましいと考えられます。
5.休職規定の新設や変更と不利益変更の関係
就業規則に「復職後6カ月以内に、同一ないし類似事由により欠勤または不完全な労務提供が認められた場合、休職とする。」というような規定がないため、休職を繰り返すことが可能であった状態で、上記のような規定を追加することは不利益変更にあたるのではないかということが問題となります。
この点、労働者は従来であれば認められていた休職が認められなくなりますので不利益変更にあたると言わざるを得ません。したがって、このような変更が有効と判断されるためには、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合との交渉の状況等から合理性があるものである必要があります。
上記のような規定の新設の新設については、社会保険等のメリットはあるものの休職中は通常無給なので、何度も繰り返して休職できるという期待権がなくなるということにすぎず、不利益の程度はそれほど大きくはないと考えれます。
一方で会社としては、繰り返し休職されると人員の確保や教育等の負担が重く、労務管理も困難となるので変更の必要性は大きいと考えられます。よって、基本的には当該不利益変更は合理性のあるものと判断されるものと考えられます。ただし、既に休職中の労働者にとっては、健康な状態の労働者の期待権という以上のものがあると考えられますので、一定期間新規規定の適用を除外するというの経過措置をとる必要があるものと考えられます。
また、精神疾患から回復し職場に復帰した労働者にとっても、今後再び休職せざるを得ないかもしれないという不安が強いものと考えられますので、例えば、直近1年以内の復職者については一定期間新規規定の適用除外とするというような配慮も必要ではないかと思います。
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