自己株式の会計処理(その1)
自己株式は、忘れた頃にふと事例にあたるので、ついでにまとめておこうと思います。
会計、税務、会社法の観点のうち、まずは会計の取扱いについて確認しておきます。
(1)関連基準
①自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準(以下「基準」)
②自己株式及び法定準備金の取崩等に関する会計基準適用指針(以下「指針」)
(2)会計処理
①会社法における自己株式の取得形態と会計処理の関係
詳細は会社法との関連でまとめようと思いますが、会社法上、自己株式の取得の方法は株主総会の決議による取得のほか、取得条項付き株式の取得や単元未満株式の買取請求に基づく取得など多様な取得の方法が認められています。
このように取得の方法は複数ありますが、会計処理に変更はありません。この点、基準33項では、「取得の方法によって会計処理を区別する理由はないと考え、すべての自己株式の取得に同様の会計処理を適用することが適切であると考えた」としています。
②会計処理の認識時点
1)取得については、対価が金銭の場合は対価を支払うべき日に認識し、対価が金銭以外の場合は対価が引き渡された日に認識する(指針5項)。
⇒約定日基準ではない点に注意(金融商品会計に関する実務指針では原則約定日基準(同指針第22項)
2)募集株式の発行等の手続による自己株式の処分については、対価の払込期日に認識する(指針6項)。
③取得
取得原価をもって純資産の部の株主資本から控除する(基準7項)。
③-1 取得対価が金銭以外の場合
自己株式の取得原価は、基本的に取得の対価となる財(金銭以外の財産)の時価と取得した自己株式の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価で算定します(適用指針第9項)。
まとめると以下のようになります。
1)取得した自己株式に市場価格がある場合
⇒一般的に当該価格を用いて自己株式の取得原価を算定する
2)取得した自己株式に市場価格はないが、取得の対価となった財に市場価格がある場合
⇒取得の対価となった財の時価を用いて取得原価を決定する。
3)取得の対価となる財及び取得した自己株式に市場価格がないこと等により公正な評価額を合理的に算定することが困難と認められる場合
⇒移転された資産及び負債の適正な帳簿価額により自己株式の取得原価を算定する
なお、上記で「基本的に」としたのは、以下の場合には別の取扱いが定められているためです。
a.企業集団内の企業から自己株式を取得する場合(適用指針第7項)
b.自社の他の種類の株式を交付する場合(適用指針第8項)
③-2 企業集団内の企業から自己株式を取得する場合
企業集団内の企業から、金銭以外の財産を対価として自己株式を取得する場合、当該自己株式の取得原価は、移転された資産及び負債の適正な帳簿価額により算定するとされています(適用指針第7項)。
③-3 自社の他の種類の株式を交付する場合
この場合はさらに二パターンに区分されます。
1)他の種類の株式を発行する場合
⇒自己株式の取得原価は、零とする
2)他の種類の自己株式を処分する場合
⇒自己株式の取得原価は、処分した自己株式の帳簿価額とする
④処分
自己株式処分損益は「その他資本剰余金」の増減として処理する(基準8項、9項)。
ただし、上記の処理により「その他資本剰余金」の金額がマイナスになってしまう場合には、その他資本剰余金をゼロまで減額し、減額しきれない分は「その他利益剰余金」のマイナスとして処理する(基準12項)。
⑤消却
消却手続が完了したときに、消却の対象となった自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から減額する(基準11項)。
自己株式の消却に係る決議は、取締役会設置会社の場合は、取締役会の決定により消却する自己株式の数(種類株式発行会社の場合は、自己株式の種類および種類ごとの数)を定めて行うことになります(会社法178条1項、2項)。
そして、消却手続完了の日とは以下のようになります。
1)株券不発行の会社
株主名簿から当該消却株式に関する事項を抹消した日
2)株券を発行している会社
株券の破棄と、株主名簿から当該消却株式に関する事項を抹消した日
⑥付随費用の取扱い
取得、処分、消却に関連する付随費用は営業外費用として計上する(基準14項)。
⑦帳簿価額の算定方法
自己株式の処分及び消却時の帳簿価額は、会社の定めた計算方法に従って、株式の種類ごとに算定する(基準13項)。
⑧無償取得の場合
1)自己株式の数のみの増加として処理する(指針14項)。
2)無償で取得した自己株式の数に重要性がある場合は、その旨及び株式数を連結財務諸表及び個別財務諸表に注記する(指針15項)
価値のある株式(特に市場価格のある株式)を無償で取得した場合には、なんとなく受贈益を計上しなくていいのかなと考えてしまいます。この点、基準では「自己株式の取得は、株主との間の資本取引であり、会社所有者に対する会社財産の払戻しと位置付け、純資産の部の株主資本から控除する会計処理を採用している」(適用指針43項)という立場をとっているので、払い戻す財産がない以上、取得価額は0ということになります。
また、自己株式を無償で取得しても、取得した会社にとっては資産が増加せず、贈与した株主が有していた持分が他の株主に移転し、株主間の富の移転が生じているにすぎません。そして、新株の有利発行の際に、時価と発行価額の差額を費用処理しないことにみられるように、一般に、株主間の富の移転のみによって当該会社の株主持分額の変動は認識されません。こうした処理との整合性をとるためには、利益を認識せず、株式数だけ増加させるという会計処理になります(適用指針42項)。
(3)連結財務諸表における会計処理
①連結子会社が保有する親会社株式の会計処理
親会社が保有している自己株式と合わせ、純資産の部の株主資本に対する控除項目として表示します。
ただし、株主資本から控除する金額は親会社株式の親会社持分相当額とし、少数株主持分から控除する金額は少数株主持分相当額とします(基準15項)
例えば80%子会社が親会社株式100を保有している場合、子会社の個別財務諸表上では「親会社株式」等の科目で資産計上されていますが、連結財務諸表上は、親会社持分の80(100×80%)を株主資本から控除し、20(100×少数株主割合20%)を少数株主持分から控除することになります。
②連結子会社による親会社株式の売却損益の会計処理
連結子会社における親会社株式の売却損益(内部取引によるものを除いた親会社持分相当額)の会計処理は、親会社における自己株式処分差額の会計処理と同様に処理します。少数株主持分相当額は少数株主利益(又は損失)に加減します(基準16項)。
例えば、80%子会社で親会社株式を外部に売却し売却益が50計上された場合、このうち80%相当額の40はその他資本剰余金に計上し、少数株主持分相当額の10については少数株主利益に加算することになります。
③持分法適用会社(関連会社など)が保有する親会社株式等の処理
親会社等(子会社においては親会社、関連会社においては当該会社に対して持分法を適用する投資会社)の持分相当額を自己株式として純資産の部の株主資本から控除し、当該会社に対する投資勘定を同額減額します(基準18項)。
また、持分法の適用対象となっている子会社及び関連会社における親会社株式等の売却損益(内部取引によるものを除いた親会社等の持分相当額)は、親会社における自己株式処分差額の会計処理と同様とし、また、当該会社に対する投資勘定を同額加減します(基準19項)。
④子会社、関連会社が保有する当該会社の自己株式の処理
子会社、関連会社が保有する自己株式の処理は、親会社による子会社株式、関連会社株式の追加取得あるいは一部売却に準じて処理する(指針17項、21項)。
(4)開示まとめ
開示に関連する事項をまとめると以下の通りです。
長くなりましたので続きは次回以降にします。
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