過年度遡及修正と各法制度との関係(その2)
平成23年4月1日以降開始事業年度から適用開始となる「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号)により、会計方針の変更、誤謬の修正ともに遡及修正が必要となります。
「過年度遡及修正と各法制度との関係(その1)」で記載したことの繰り返しになりますが、法制度の観点からすると、会計方針の変更により遡及修正した場合と誤謬により遡及修正した場合では以下のような点で大きな差異があります。
1)会計方針の変更による場合
過去の財務諸表に誤りがなく、過去における法制度の遵守には何の問題もない
2)誤謬による場合
過去の財務諸表に誤りがあるため、法制度の遵守に問題がある
「過年度遡及修正と各法制度との関係(その1)」では、会計方針の変更のケースについて記載したので、今回は「誤謬による(遡及)修正」と各法制度の関係を確認します。
(1)誤謬の修正による過年度財務諸表の遡及修正
①金商法の開示書類との関係
上記のとおり、誤謬の修正の場合は過去の財務諸表に誤りがあるため、当期の有価証券報告書等でどのように処理するかということに加えて、過年度に提出済みの有価証券報告書等について訂正報告書の提出が必要かという点が問題となります。
1.当期の有価証券報告書等
「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」では、「過去の財務諸表における誤謬が発見された場合には、次の方法により修正再表示する。」(第21項)と規定されているのみで、「重要な」誤謬とはされていません。
しかしながら、「重要性の原則」は当然考慮されるべき(第42項参照)ですし、第65項(結論の背景)では「本会計基準の適用により、過去の誤謬を前期損益修正項目として当期の特別損益で修正する従来の取扱いは、比較情報として表示される過去の財務諸表を修正再表示する方法に変更されることになるが、重要性の判断に基づき、過去の財務諸表を修正再表示しない場合は、損益計算書上、その性質により、営業損益又は営業外損益として認識する処理が行われることになると考えられる。」とされています。
したがって、重要性の有無によって以下のように処理することになると考えられます。
1)重要性ある場合
⇒修正再表示
2)重要性ない場合
⇒当期のPL(営業損益または営業外損益)で一括処理
なお、修正再表示を行った場合は、財規第8条の3の7により会計基準第22項で要求されている項目の注記が必要となります。
2.過年度の有価証券報告書等
過年度の有価証券報告書等については、訂正報告書を提出すべきかを検討する必要があります。
訂正報告書の提出については、金商法第7条において「・・・(省略)・・届出書類に記載すべき重要な事項の変更その他公益又は投資者保護のため当該書類の内容を訂正する必要があるものとして内閣府令で定める事情があるときは、届出者(会社の成立後は、その会社。以下同じ。)は、訂正届出書を内閣総理大臣に提出しなければならない。これらの事由がない場合において、届出者が当該届出書類のうちに訂正を必要とするものがあると認めたときも、同様とする。」と定められています。
会社が過去の誤謬について重要性があると判断した場合に修正再表示が選択されることになるということから考えると、少なくとも会社としては「届出者が当該届出書類のうちに訂正を必要とするものがある」と考えていることになるのではないか、つまり訂正報告書を提出しないということはあり得ないのではないかという点が問題となります。
この点、「「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等に対するパブリックコメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方」(平成平成22年9月30日)の3において、訂正報告書を提出するかどうかと修正再表示するかどうかの判断基準は異なるとしており、要は修正再表示したからといって訂正報告書の提出が必要ということにはならないという旨の回答がされています。
<参考URL・・・金融庁HP>
http://www.fsa.go.jp/news/22/sonota/20100930-6/01.pdf
まあ、そうは言っても実務上は訂正報告書を提出することになると予想されます。現場としては、修正再表示をしたら訂正報告書を提出しなければならないとしてくれたほうが分かりやすいような気がします。
3.金商法上の責任
最初にも書きましたが、誤謬による修正の場合は、過去の財務諸表に誤りがあるため、法制度の遵守に問題があります。したがって、金商法上の開示書類の記載事項に誤りがあった場合は、行政上、刑事上、民事上の責任を発行会社または役員が負うことがあり得ます。
例えば有価証券報告書の場合は以下のような責任が生じる可能性があります。
①行政処分
<要件>
重要な事項につき虚偽の記載があり、または記載すべき重要な事項の記載が欠けているものを提出
<課徴金額>
600万円またはこれを上回る算定金額(時価総額の0.006%)(金商法172条の4第1項)
②刑事責任
<要件>
重要な事項につき虚偽の記載があるものを提出
<法定刑>
1)行為者について、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金またはこれを併科(金商法197条1項1号)
2)法人両罰規定・・・法人について7億円以下の罰金(金商法207条1項1号)
③民事責任
有価証券を取得した者の虚偽記載等により生じた損害に対して、一定の場合に損害賠償責任が発生します。なお、損害賠償責任を負う主体は、提出会社、提出会社の役員、監査証明を行った監査法人(公認会計士)です。
長くなりましたので、過去の誤謬による過年度遡及修正と会社法の関係については次回以降にします。
日々成長。