震災特例法による法人税の繰り還付と会計処理
「東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律」(以下「震災特例法」という。)が、平成23年4月27日の参院本会議で可決され、同日公布・施行されています。
同法における繰戻還付の概要は以下の通りです。
平成23年3月11日から平成24年3月11日に終了する各事業年度又は平成23年3月11日から平成23年9月10日に終了する中間期間において生じた「繰戻対象震災損失金額」(当該各事業年度又は中間期間において生じた法人税法第74条第1項第1号又は第72条第1項第1号に掲げる欠損金額のうち、東日本大震災により棚卸資産、固定資産(法人税法第2条第22号に規定する固定資産をいう)その他政令で定める資産について生じた損失の額で政令で定めるもの)がある場合には,確定申告書(中間申告書)の提出と同時に,その繰戻対象震災損失金額に係る事業年度又は中間期間開始の日前2年以内に開始した事業年度の法人税額のうち,その繰戻対象震災損失金額に対応する部分の金額の還付を受けることができるとしています(震災特例法15条(単体)、23条(連結))。
注意すべき点は、繰戻還付の対象となるのは「東日本大震災により棚卸資産、固定資産(法人税法第2条第22号に規定する固定資産をいう)その他政令で定める資産について生じた損失の額」(以下この損失の額を「震災損失額」という)に限られる点です。
震災損失金額は、棚卸資産,固定資産又は固定資産に準ずる繰延資産について生じた以下の金額の合計額から,保険金,損賠賠償金その他これらに類するものにより補てんされるものを除いた金額を意味する(「東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律施行令」(以下「震災特例法施行令」とする)16条1項・2項、21条1項)。
<震災損失金額>
①資産の滅失等による損失の額(震災特例法施行令 第16条2項1号)
東日本大震災により当該資産が滅失し、若しくは損壊したこと又は東日本大震災による価値の減少に伴い当該資産の帳簿価額を減額したことにより生じた損失の額(その滅失、損壊又は価値の減少による当該資産の取壊し又は除去の費用その他付随費用に係る損失の額を含む。)
②原状回復に要する費用の額?(震災特例法施行令 第16条2項2号)
日本大震災により、当該資産が損壊し、又はその価値が減少し、その他当該資産を事業の用に供することが困難となった場合において、これらの被害があった日から1年以内に当該資産の原状回復のために支出する修繕費、土砂その他の障害物の除去に要する費用その他これらに類する費用(その損壊又は価値の減少を防止するために支出する費用を含む。)に係る損失の額
なお,災害損失特別勘定に繰り入れられた金額も震災損失の額に含まれるものとされています(「東日本大震災の被災者等に係る国税関係の臨時特例に関する法律関係通達(法人税編)の制定について(法令解釈通達)」15-4)。
したがって、震災損失がなかったとした場合に生じていた繰越欠損金は震災特例法による繰戻還付の対象とはなりません。この場合は、震災損失分だけが震災特例法による繰戻還付の対象となります。
仮に震災損失がなかったら、課税所得が生じていた場合で震災損失により繰越欠損金が生じたような場合は、その繰越欠損金の全額が震災特例法による繰戻還付の対象となります。
<繰戻還付額>
繰戻還付額は以下のように計算される。
法人税の還付額=還付所得事業年度の法人税額×(その還付所得事業年度に繰り戻す繰戻対象震災損失金額/その還付所得事業年度の所得金額)
<繰戻還付と後発事象>
今回の震災特例法の施行は平成23年4月27日ですが、3月決算の会社の場合は遡って適用可能となっています。したがって、3月決算の場合、当該事象は修正後発事象にあたるので財務諸表を修正するのが原則ですが、施行日時点ですでに会社法の決算が完了していた会社も多いことが想定されます。
この場合、監査・保証実務委員会報告第76号「 後発事象?に関する監査上の取扱い」では,修正後発事象が会社法監査における会計監査人の監査報告書日後に発生した場合には,金融商品取引法に基づいて作成される財務諸表においては,開示後発事象に準じて取り扱うとされているため、金融商品取引法に基づいて作成される財務諸表では開示後発事象として取り扱うことになると考えられます。
なお、会社法の決算が完了していなかった場合には、原則どおり修正後発事象として財務諸表の修正を行う必要があると考えられます。
特に、繰越欠損金の回収可能性がないと判断されたため繰越欠損金に対して繰延税金資産を計上していない会社が、繰戻還付を受けられることになったようなケースでは損益に与える影響が大きくなる可能性があるので注意が必要です。
元々、繰越欠損金に対して繰延税金資産が計上されていた会社はBS間での入り組みが生じますが、損益に対する影響はないと考えられます。
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