株式割引発行差金-韓国GAAPとIFRS
韓国の子会社の試算表を確認したら、純資産の部の資本金の下に資本調整として「株式割引発行差金」というマイナス残高の項目があり、これは何だ??ということで内容を確認しました。
株式会社ポスコの第43期第3四半期報告書(平成22年9月30日)において、「韓国と日本における会計原則及び会計慣行の主な相違点」として以下のように開示されていました。
(ヌ)新株発行費
韓国では新株発行手数料等新株発行のために直接発生したその他の費用を株式発行超過金から直接控除(株式発行超過金の残額がない場合は資本調整に株式割引発行差金として計上)する。日本の場合、株式交付費(新株の発行又は自己株式の処分に係る費用)は、原則として、支出時に費用として処理するが、企業規模の拡大のためにする資金調達などの財務活動に係る株式交付費については、繰延資産に計上することができるとされ、この場合には、株式交付のときから3年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法により償却をしなければならない。
また、同社のBSの表示(資本の一部)は以下のようになっています。
「株式発行超過金」は日本でいうところの資本準備金に相当するもののようです。上記から、原則として新株交付費は「株式発行超過金」から控除するが、「株式発行超過金」がないような場合には「株式割引発行差金」がマイナス残高で表示されることになるということがわかりました。
日本基準における自己株式の処分差損も同じような処理がされます。しかしながら、株主からの払込資本がマイナス残高にならないようにという趣旨から「その他資本剰余金」が0になるまでは「その他資本剰余金」から控除されるもののマイナス残高になることはありません(マイナスになる場合の差額は「その他利益剰余金」から減額されます)。
面白い差ですね。
ところで、韓国では2011年1月からIFRSが採用されていますが、韓国基準はIFRSとの同等性評価で元々「近似」という評価を得ていました。
ということは、IFRSでも同様の処理が行われるのかを確認したところ、やはり株式交付費は発行時の入金額から直接控除されるとのことでした。つまり、IFRSでは、日本基準のように繰延資産として計上される余地はない上、費用処理ではなく資本からの控除となるという違いがあります。
ちなみに、IFRSにおいて株式交付費を資本から直接控除しなければならないというのはどこに書いてあるのだろうと調べたところ、IAS39号の適用ガイダンスE.1.1「取引コストは金融資産又は金融負債の当初認識に含めなければならない」を根拠としているものがありました。
IAS32号では、金融商品を金融資産・金融負債・資本性金融商品に区分して定義しており、IAS39号でもIAS32号で定義されている項目については同様の意味で使用されています(第8項)。ということは、上記ガイダンスは「金融資産又は金融負債の」となっていますので、社債発行費を直接控除しなければならないという根拠にはなっても新株交付費を直接控除しなければならないという根拠にはならないように思えます。
とりあえず、新株交付費を発行時の入金額から直接控除しなければならないというのは、間違いなさそうなのでとりあえずそれで理解しておくことにします。
最後に日本基準ですが、無形資産の論点整理で繰延資産については検討対象となっており、最終的にはIFRSと同様の処理が求められるようになるものと考えられます。
日々成長。