精神障害を事由とする労災申請(その1)
そろそろ平成22年度版がでる頃ではないかと思いますが、「平成21年度における脳・心臓疾患及び精神障害等に係る労災補償状況について」によると、うつ病等の「精神障害等」による労災の申請件数等は以下の図表のように増加傾向にあります。
申請件数の平成14年度から平成21年度のCAGRを計算すると18.8%とすさまじい伸びを見せています。「精神障害」等による労災申請が認められる可能性があるという認識が広まり、請求件数が増加しているという側面もあると考えられるので、請求件数の伸びが「うつ病」等の精神障害を患っている労働者の伸びを意味することにはなりませんが、その影響を差し引いても精神障害を患い、かつそれが業務に起因すると考える労働者の数が増加しているというのは確かなことのようです。
なお、労働基準監督署へ労災申請の相談にきた労働者の約7割は、手続きの煩雑さ等の理由により申請を断念するといわれていますので、みかけ以上に業務を起因として精神障害を患ったと考えている労働者が多いという点には注意が必要です。
認定率(労災申請に対する決定において労災が認められた率)の推移からすると、認定率は概ね3割程度といえ、上記のとおり申請自体をあきらめている労働者もいるという状況からすると厳しい結果と言えるかもしれません。
上記のとおり近年「精神障害」等による労災申請件数は増加していますが、厚生労働省発表の資料によると申請から決定が下るまでの平均期間は約8.7カ月(平成21年度)となっています。同資料によると平成21年度の出来ごと類型別の平均処理期間は以下のようになっています。
(第2回 精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会 資料2より)
決定が下るまで8.7カ月をどうみるかですが、時間がかかりすぎるというのが多くの方が抱く感覚なのではないかと思います。
ところが、以下の決定が下るまでの平均期間の年度別推移をみると、8.7か月も相当改善された結果であることが分かります。平成11年度以前はなんと27.6ヶ月(つまり平均して2年以上)もの期間を要していました。
(第1回 精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会?資料2より)
平成11年度以降、徐々に処理期間が短縮されてきているのは、平成11年9月14日に基発第544号「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」(なお、この指針は平成21年4月6日づけで改正されています)が策定されたことにより、業務上外の認定が行いやすくなったことによる効果が大きいようです。
平成21年4月の改正内容については以下(厚生労働省HP)で確認できます。
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/04/dl/h0406-2b.pdf
また、厚生労働省作成の「精神障害等の労災認定について」というパンフレットは以下からダウンロード可能です。
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/040325-15.html
とはいえ、それでも約9カ月は長いので、この労災認定までの審査の迅速化・効率化を目的として、厚生労働省では「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」が2010年10月から開催しています。
この検討会は、月1回位の割合で開催されており、2011年5月31日に第6回が開催されています。各種資料等も厚生労働省の以下のHPで確認することができます。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000aiuu.html#shingi83
<業務上の疾病として認めてもらえる要件は?>
業務に起因して外傷を負ったというような労働災害の場合はわかりやすいですが、精神障害の場合は、労働者の内面の問題であるためどのような場合に労災として認められるのかが一番気になるところだとおもいます。
この点について、厚生労働省作成の「精神障害等の労災認定について」から判断要件を抜粋すると以下のようになります。
(厚生労働省作成「精神障害等の労災認定について」より抜粋)
上記の判断要件では、いまいちピンとこないと思いますので、もう少し具体的に見ていくことにしますが、長くなりそうなのでここで一度区切ることにします。
日々成長。