売却を前提とした組織再編は共通支配下の取引となるか?
撤退したい事業等の売却を目的として、売却しやすいように関連する部門を既存の一つの会社に集約したり、あるいは新会社を設立してその会社に集約したりするために会社分割などの組織再編が行われることがあります。
単純な例を示すと、親会社P社とその100%子会社S1社だけの単純な連結グループの場合で、子会社で抱えている事業の一部から撤退するためその事業を売却しやすくするため以下のような会社分割を行うような場合です。
以下の例では、いわゆる新設分社型分割となっていますが、分割型分割(S1社と並列のS2社を設立する)によることも当然あり得ます。
この場合の会計処理ですが、企業結合に関する会計基準(企業会計基準第21号)第118項では「・・・新設分割による子会社の設立については、共通支配下の取引に係る会計処理に準じて処理するのが適当である」とされていますので、基本的には共通支配下の取引として上記の場合のS2社は簿価で資産負債等を受け入れることになると考えられます。
ところが一方で、企業結合に関する会計基準第16項において、『「共通支配下の取引」とは、結合当事企業(又は事業)のすべてが、企業結合の前後で同一の株主により最終的に支配され、かつ、その支配が一時的ではない場合の企業結合をいう』と定めされています。
したがって、売却を前提として組織再編を行う場合は、「かつ、その支配が一時的ではない場合の企業結合」という要件を満たさないので共通支配下の取引には該当せず、上記の例の場合S2社は時価で資産・負債を受け入れなければならないという考え方もあり得ます。
しかしながら、仮に売却を前提としている場合であっても上記のようなケースでは簿価で受け入れるという処理が妥当だと考えます。
時価で受け入れるということはS1社で移転損益を認識するということを意味します。そして、移転損益が認識されるということは、事業分等に関する会計基準(企業会計基準第7号)第10項によると投資が精算されたことを意味します。
同項によると、「現金など、移転した事業と明らかに異なる資産を対価として受け取る場合には、投資が清算されたとみなされ」ますが、「子会社株式や関連会社株式となる分離先企業の株式のみを対価として受け取る場合には、当該株式を通じて、移転した事業に関する事業投資を引き続き行っていると考えられることから、当該事業に関する投資が継続しているとみなされる」とされています。
したがって、売却を前提とした組織再編であっても、上記のように組織再編を行っただけでは、他の企業に取得されたわけでもなく、また投資が精算されたとみることもできないと考えられます。また、直感的に考えても、売却を前提としているとはいえ組織再編をしただけで資産等の評価損益を計上できると考えるのは違和感があります。
以上のことから考えると、共通支配下の取引における「かつ、その支配が一時的ではない場合の企業結合」は、上記のように直後に売却することを想定した組織再編は想定していないのではないかと思います。
現行の企業結合に関する会計基準は、現金を対価として株式を取得して子会社化するような取引にも適用されますので、「連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第22号)第18項に述べられている「支配が一時的であるため連結の範囲に含めない子会社」が参考になると考えられます。
同項では、「例えば、直前連結会計年度末において、所有する議決権が100分の50以下で支配に該当しておらず、かつ、翌連結会計年度以降その所有する議決権が相当の期間にわたって100分の50以下となり支配に該当しないことが確実に予定されている場合は、当連結会計年度における支配が一時的であると認められる」とされています。
このことからすると、例えば、ある会社を取得し子会社化し、かつ、そのうち一定の部門は切り離して売却することが予定されているようなケースにおいて、新設会社分割により売却予定事業を切り離したような場合は、時価で資産・負債を受け入れることになるのではないかと思います。もっとも、この場合は子会社化した段階で取得企業の資産・負債は時価評価して連結処理しているものと考えられますので、あまり影響はないように思います。
日々成長。