連結納税(その7)-税額計算の全体像
連結納税について前回までで、概要およびメリット・デメリットについて述べてきました。今回は、連結納税の場合の税額計算の全体像を確認します。
税額計算の全体的な流れを示すと以下のようになります。
基本的には上記の図のとおりですが、計算の流れをまとめると以下のようになります。
(1)各社毎に当期利益に個別で調整すべき所得調整を行う
(2)連結納税グループ全体で計算すべき所得調整額を計算し各社に配分された金額の調整を行う。(地方税は各社で納税する必要があるので、全体で計算した金額を各社に配分する手続きが必要となります)
(3)連結特有の調整項目があれば調整を行います。この項目には、連結子法人の帳簿価額修正による連結子法人株式譲渡損益の修正(法人税法施行令119条の3第5項、119条の4第1項)が該当します。
(4)(1)から(3)を調整した各社の所得を合計して親法人に適用される税率をもって法人税額を計算します。
(5)(4)で計算された税額を以下の算式に基づいて各社に配分します。
(6)各社毎に計算する税額控除額を(5)の税額から控除します。
(7)連結納税グループ全体で計算すべき税額控除額を計算し各社に配分します。
(8)(5)-(6)-(7)で各社の税額を計算し、それらを合算した金額が親法人が納付すべき税額となります。
(9)連結子法人と精算を行います(平成22年税制改正により精算するか否かは任意とされています)。ただし会計的には子法人に対して未収あるいは未払計上が必要とされています。
基本的には単体納税の所得をグループで通算して税額を計算するというイメージですが、連結納税の場合は、所得調整項目や税額控除の中に連結グループ全体で計算しなければならない項目(上記図で②および⑤)があることと連結特有の調整項目があるという点がポイントです。
1.連結グループ全体で計算する所得調整項目
順番が前後しますが「②連結グループ全体で計算する所得調整項目」から確認することにします。連結納税のメリットでも触れましたが、この②に該当する調整項目としては以下のようなものがあります。
(1)受取配当金の益金不算入(法人税法81条の4)
(2)寄附金の損金不算入(法人税法81条の6)
(3)交際費等の損金不算入(租税特別措置法68条の66)
上記の(1)から(3)についてはグループ全体で不算入額を計算し、各社に配分する必要があります。
例えば交際費については、各社への配分額は以下のように計算されます。
P社(資本金5000万円)、S1社、S2社の支出交際費等の金額がそれぞれ800万円、600万円、200万円であった場合、グループ全体での損金不算入額は600万円×10%+(1600万円―600万円)=1060万円と計算されます。
この金額を上記の算式で各社に配分すると、P社は1060万円×(800万円/1600万円)=530万円となります。同様に計算するとS1社は397.5万円、S2社は132.5万円となります。
なお、連結親法人の資本金等の額が1億円超の場合は交際費等の損金算入限度額は0ですので、その場合は配分するまでもなく各社の支出交際費等の金額がそれぞれの調整金額となります。
次に「①法人ごとに計算する所得の調整項目」ですが、これは上記②に該当しない通常の所得調整項目となります。例えば、減価償却限度超過額の調整や各種引当金の損金算入限度超過額の調整、費用項目の自己否認による加算などが該当します。
2.連結特有の調整項目
前述のとおりこれには、連結子法人の帳簿価額修正による連結子法人株式譲渡損益の修正(法人税法施行令119条の3第5項、119条の4第1項)が該当します。
詳細はここでは省略しますが、連結納税主体内での二重課税や二重控除を防止することを目的とする調整です。といってもイメージがつかないと思いますので、簡単な例を一つ考えてみます。
①連結親法人(P社)が100を出資して新しく完全支配子会社であるS2社を設立した。
②S2社は連結所得50を計上し、連結納税の下でこの所得に対して法人税が課税された。
③翌年P社はS2社の株式を150で外部に売却した。
一般的に、利益剰余金が留保されていくと売却価額が高くなり売却により利益が発生すると考えられます。この場合、P社では子会社株式の売却により利益が50発生し、そのままだとこの利益に対して課税されてしまします。しかしながら、利益剰余金が留保されていることにより利益が計上されている分があるのであれば、既に連結納税で課税済みの所得に対して再度課税が行われてしますことになり不合理な結果となりますので、連結納税で課税済みの利益・損失のうち留保されている分だけ調整を行うというものです。
3.連結グループ全体で計算する税額控除
連結グループ全体で計算する税額控除には以下のようなものがあります(上記図表の⑤)。
(1)所得税額控除(法人税法81条の14)
(2)外国税額控除(法人税法81条の15)
(3)特定同族会社の留保金課税(法人税法81条の13)
(4)試験研究費の税額控除(租税特別措置法68の9)
(5)中小企業者等に係る教育訓練費の税額控除(租税特別措置法68条の12第5項)
一方で、法人ごとに計算する税額控除としては、設備投資に係る税額控除(租税特別措置法68条の10~14)があります。
長くなりましたので、上記で計算された税額による会計上の記帳方法については次回にします。
日々成長。