過年度計算書類の訂正を総会への報告事項とすることはできるか?
前回はオリンパスの計算書類の訂正が何故5年分なのかについて書きましたが、今回は、過年度の計算書類を訂正する場合、総会決議が必要かについて確認します。
計算書類については、株主総会の承認を受けることが原則ですが(会社法438条2項)、以下の要件を満たす場合には取締役会での計算書類の承認により決算が確定し、定時株主総会へは報告で足りるという特例が認められています(会社法439条、会社計算規則135条)。
その要件とは、
①会計監査報告が無限定適正意見であること
②監査役、監査役会または監査委員会の監査報告で会計監査人の監査を不当とする意見がないこと
③各監査役・監査委員の付記意見にも上記の意見がないこと
④みなし監査の規定が適用された場合でないこと
⑤取締役会設置会社であること
です。
問題は、過年度の計算書類の訂正の場合も上記の要件を満たす場合は、決議事項ではなく報告事項としてよいのかです。
この点について、「過年度決算訂正の法務 第2版」では「この特例はあくまで通常の決算を前提とするものであるから、過年度の計算書類の訂正の場合には適用はなく、常に株主総会の承認を要するという見解もありうる。しかし、会計監査人設置会社の特例に係る上記の趣旨は、訂正の場合であっても同じく妥当するものといえるし、訂正については常に株主総会の承認が必要とすると迅速な決算の訂正が困難となるので、そこまで硬直的に考える必要はないであろう」とされています。
つまり、特例の要件を満たせば報告事項でよいということになります。
<そこで、オリンパスというHOTな事例がありますので、どのようになっているのかを確認してみます。
平成24年4月20日に開催の臨時株主総会の議案をみると、以下のように過年度の計算書類の訂正については決議事項となっています。
(オリンパス社 2012年3月2日 臨時株主総会開催のお知らせより)
では、今回の1件が発覚する前の平成23年3月期の計算書類はどうだったのかと確認すると、これは以下のとおり当然のごとく報告事項とされています(いつも決議事項としているわけではありません)。
上記訂正では当然のごとく全事業年度において無限定適正意見が表明されているものと思い込んでいましたが、コメントを頂きH21/3期~H19/3期については、あずさ監査法人が限定付適性意見を表明していたと認識を改めました。残りの2期間については新日本監査法人が無限定適正意見を表明しており、この点についてのみ、前述の「過年度決算訂正の法務 第2版」の見解とは異なる対応がとられていることになります。
当該2期間についても決議事項とされている理由の一つとして考えられるのは、同書で述べられていたように「この特例はあくまで通常の決算を前提とするものである」という立場をとっているためと考えられます。
もう一つ考えられるのは、過去5年分の計算書類等を修正する中で、理屈上は3期分だけ決議事項、2期分のみ報告事項とする余地があったとしても、世間的な注目度合いを考えると、この選択肢は採用しにくいということです。
個人的にはおそらく後者ではないかと想像します。
最後に、訂正の対象となった過年度の計算書類を承認した時点の取締役会のメンバーと、誤謬が発覚し、訂正された過年度計算書類を承認した取締役会のメンバーは同一でない可能性があります。
そこで、過去の計算書類を現在の取締役会あるいは現在の株主総会が承認するということに多少の違和感を感じますが、これについては、現在の取締役会あるいは株主総会が承認するしかないと割り切るしかないようです。