過年度遡及修正と金商法の関係
“過年度遡及修正と各法制度の関係(その2)”で過去の誤謬と有価証券報告書における対応について書きましたが、「過年度遡及処理の会計・法務・税務」(新日本有限責任監査法人 森・濱田松本法律事務所)の第2版が出版されていたので、内容をアップデートすることにします。
1.当期の有価証券報告書の対応
当期の有価証券報告書における対応は、過年度の誤謬が重要か否かによって以下のように対応することになります
①過年度の誤謬に重要性がある場合
過年度遡及修正が必要
②過年度の誤謬に重要性がない場合
当期一括処理
なお、重要性がない場合の根拠としては、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準第65項で「本会計基準の適用により、過去の誤謬を前期損益修正項目として当期の特別損益で修正する従来の取扱いは、比較情報として表示される過去の財務諸表を修正再表示する方法に変更されることになるが、重要性の判断に基づき、過去の財務諸表を修正再表示しない場合は、損益計算書上、その性質により、営業損益又は営業外損益として認識する処理が行われることになると考えられる」とされている点が挙げられます。
2.その他当期の適時開示における対応
(1)決算短信の訂正
決算短信公表後に、その内容に変更が生ずる場合には、決算短信の訂正開示が必要(東証の場合、有価証券上場規程416条1項、404条)
(2)有価証券報告書または四半期報告書の提出前に変更または訂正すべき事項が生じた場合の開示
当該決算に係る有価証券報告書または四半期報告書の提出後遅滞なく行えば足りる(東証の場合、有価証券上場規程416条2項)
(3)決算予想値の修正
公表された直近の決算予想値と比較して、誤謬の修正を反映して新たに算出した各予想値が以下の基準以上に変動する場合、適時開示義務があります(東証の場合、有価証券上場規程405条1項、同施行規則407条)。
①連結売上高の10%以上
②連結営業利益、経常利益又は純利益については30%以上
なお、連結財務諸表非作成会社の場合は、単体の事業年度および売上高等に置き換えて適用されます(東証の場合、有価証券上場規程405条4項)
(4)金商法に規定される予想値等の変動が生じた場合の適時開示
金商法166条(←インサイダー取引規制)2項3号あるいは7号に掲げる予想値等から変動が生じた場合、適時開示義務が課されている(東証の場合、有価証券上場規程405条3項)
3.過年度の有価証券報告書等における対応
過去に提出した有価証券報告書等では、重要な事項の変更があった場合は訂正報告書を提出しなければならないものとされています(金商法24条の2第1項、7条、24条の4の7第4項、24条の4の5第1項など)。
なお、自発的に訂正報告書を提出しない場合は、提出命令が下されることになります。
ここで問題となるのは、金商法でいうところの重要性と、過年度遡及修正を行うかどうかを判断する際の重要性が同じものかどうかです。
この点につき、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等に対するパブリックコメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方」(平成平成22年9月30日)の3においては、訂正報告書を提出するかどうかと修正再表示するかどうかの判断基準は異なるとされています。
しかしながら、『監査基準委員会報告書第63号「過年度の比較情報-対応数値と比較財務諸表」の公表について』において、「なお、会計基準上、過去の財務諸表に従業な誤謬があった場合には、修正再表示を行うことになっております。一方、金融商品取引法上、重要な事項の変更等を発見した場合訂正報告書の提出が求められていることから、一般的には過去の誤謬を比較情報として示される前期数値を修正再表示することにより解消することはできないと考えられます。したがって、本報告書における過去の誤謬の修正再表示に関する要求事項等については、金融商品取引法の監査においては、通常適用されないことにご留意ください」とされています。
つまり、前述のパブリックコメントは忘れて、実務上は、会計上修正再表示が必要となるくらい重要性があると判断するものであれば、訂正報告書の提出も必要と考えるべきということになり、取扱いとしては妥当な判断だと思います。
金商法上の責任については、今回特に付け加えることはないので、記載を省略します。
最後に、有価証券上場規程は、特定の人以外はあまり目にすることがない規程ではないかと思いますので、関連条文を掲載しておきます。
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<有価証券上場規程>
(決算短信等)
第404条
上場会社は、事業年度若しくは四半期累計期間又は連結会計年度若しくは四半期連結累計期間に係る決算の内容が定まった場合は、当取引所所定の「決算短信(サマリー情報)」又は「四半期決算短信(サマリー情報)」により、直ちにその内容を開示しなければならない。
(予想値の修正等)
第405条
上場会社は、当該上場会社の属する企業集団の売上高、営業利益、経常利益又は純利益(上場会社がIFRS任意適用会社である場合は、売上高、営業利益、税引前利益、当期利益又は親会社の所有者に帰属する当期利益)について、公表がされた直近の予想値(当該予想値がない場合は、公表がされた前連結会計年度の実績値)に比較して当該上場会社が新たに算出した予想値又は当連結会計年度の決算において差異(投資者の投資判断に及ぼす影響が重要なものとして施行規則で定める基準に該当するものに限る。)が生じた場合は、直ちにその内容を開示しなければならない。
3 上場会社は、法第166条第2項第3号に掲げる事実が生じた場合(前2項に規定する場合を除く。)又は同条第2項第7号に掲げる事実が生じた場合は、直ちにその内容を開示しなければならない。
(開示内容の変更又は訂正)
第416条
上場会社は、第402条から第411条の2まで又は前条第2項の規定に基づき開示した内容について変更又は訂正すべき事情が生じた場合は、直ちに当該変更又は訂正の内容を開示しなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、第404条の規定に基づき開示した決算の内容について有価証券報告書又は四半期報告書の提出前に変更又は訂正すべき事情が生じた場合(投資者の投資判断に及ぼす影響が重要なものと当取引所が認める場合を除く。)の開示については、当該決算に係る有価証券報告書又は四半期報告書の提出後遅滞なく行えば足りるものとする。
<有価証券上場規程規則>
(上場会社の予想値の修正)
第407条
規程第405条第1項に規定する投資者の投資判断に及ぼす影響が重要なものとして施行規則で定める基準は、次の各号に掲げる区分に従い、当該各号に定めることとする。
(1)企業集団の売上高
新たに算出した予想値又は当連結会計年度の決算における数値を公表がされた直近の予想値(当該予想値がない場合は、公表がされた前連結会計年度の実績値)で除して得た数値が1.1以上又は0.9以下であること。
(2)企業集団の営業利益
新たに算出した予想値又は当連結会計年度の決算における数値を公表がされた直近の予想値(当該予想値がない場合は、公表がされた前連結会計年度の実績値)で除して得た数値が1.3以上又は0.7以下(公表がされた直近の予想値又は当該予想値がない場合における公表がされた前連結会計年度の実績値がゼロの場合はすべてこの基準に該当することとする。)であること。
(3)企業集団の経常利益(上場会社がIFRS任意適用会社である場合は、税引前利益)
新たに算出した予想値又は当連結会計年度の決算における数値を公表がされた直近の予想値(当該予想値がない場合は、公表がされた前連結会計年度の実績値)で除して得た数値が1.3以上又は0.7以下(公表がされた直近の予想値又は当該予想値がない場合における公表がされた前連結会計年度の実績値がゼロの場合はすべてこの基準に該当することとする。)であること。
(4)企業集団の純利益(上場会社がIFRS任意適用会社である場合は、当期利益及び親会社の所有者に帰属する当期利益)
新たに算出した予想値又は当連結会計年度の決算における数値を公表がされた直近の予想値(当該予想値がない場合は、公表がされた前連結会計年度の実績値)で除して得た数値が1.3以上又は0.7以下(公表がされた直近の予想値又は当該予想値がない場合における公表がされた前連結会計年度の実績値がゼロの場合はすべてこの基準に該当することとする。)であること。
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