「法定実効税率の変更による繰延税金資産及び繰延税金負債の修正額」の開示例
平成23年12月2日に公布された法人税法の改正により、税率が変更され、平成24年4月1日以降開始事業年度から法定実効税率が下がることは以前のエントリでも書きましたが、期中に法人税等の税率の変更があった場合は、税効果の注記で法定実効税率の変更による繰延税金資産及び繰延税金負債の修正額を開示する必要が生じます。
前年度は税率変更が実現しなかったわけですが、平成23年版の宝印刷の記載例によると、「(期中に法人税等の税率の変更があった場合)」の記載例(連結)として、以下が示されています。
「3.法定実効税率の変更による繰延税金資産及び繰延税金負債の修正額
「〇〇〇〇〇〇〇〇(平成〇年法律第〇号)が平成〇年〇月〇日に公布され、法定実効税率はXX.X%からXX.X%に変更されております。
この税率の変更により、繰延税金資産の純額がXX百万円増加し、当連結会計年度に計上された法人税等調整額の金額が同額減少しています。」
税率が下がると言われていたにもかかわらず、繰延税金資産が増加する方向で記載例が作成されている理由はわかりませんが、すくなくとも上記のような記載が必要となります。
12月決算の会社であれば、期末時点では税制改正が公布されていたため上記のような注記が必要となりますので、まだ事例はないかと思いつつ調べたところ、既に2011年12月期の有価証券報告書を提出している会社がありました。
日置電機(株)という東証一部の会社で、監査法人は太陽ASGです。注記されていた内容は以下のとおりです。
「3.法人税率の変更等による繰延税金資産及び繰延税金負債の金額の修正
「経済社会の構造の変化に対応した税制の構築を図るための所得税法等の一部を改正する法律」(平成23年法律第114号)及び「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」(平成23年法律第117号)が平成23年12月2日に公布され、平成24年4月1日以後に開始する連結会計年度から法人税率の引下げ及び復興特別法人税の課税が行われることとなりました。これに伴い、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に使用する法定実効税率は従来の40.2%から、平成25年1月1日に開始する連結会計年度から平成27年1月1日に開始する連結会計年度に解消が見込まれる一時差異については37.5%に、平成28年1月1日に開始する連結会計年度以降に解消が見込まれる一時差異については35.1%となります。この税率変更により、繰延税金負債の金額(繰延税金資産の金額を控除した金額)は26,326千円減少し、法人税等調整額が24,640千円減少しております。」
12月~2月決算の会社にはありがたい事例です。
ところで、「法定実効税率」というと計算式しか頭に浮かばなかったので、税効果の注記の税率調整でスタートとなる法定実効税率は改正前なのか改正後なのかが気になりました。
結論からすると、改正前の税率となります。
注記の内容を定めている連結財規第15条の5第2号において、『当該連結会計年度に係る連結財務諸表提出会社の法人税等の計算に用いられた税率(以下この条において「法定実効税率」という。)と法人税等を控除する前の当期純利益に対する法人税等(税効果会計の適用により計上される法人税等の調整額を含む。)の比率(以下この条において「税効果会計適用後の法人税等の負担率」という。)との間に差異があるときは、当該差異の原因となった主な項目別の内訳』とされているためです。
「連結財務諸表提出会社の法人税等の計算に用いられた税率」という部分には「(税効果会計の適用により計上される法人税等の調整額を含む。)」という括弧書きがついていませんので、当期の納税額を計算するのに用いた税率を意味していると考えられます。
ちなみに基準上で「法定実効税率」がどのように定義されているのかを確認したところ、個別税効果の実務指針第17項において「・・・、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に使われる税率は、以下のように事業税の損金算入の影響を考慮した税率(以下「法定実効税率」という)による」とされているのみでした。
一方で、第18項において「税効果会計上で適用する税率は決算日現在における税法規定に基づく税率による。したがって、改正税法が当該決算日までに公布されており、将来の適用税率が確定している場合は改正後の税率を適用する。」とされていますので、注記で用いる法定実効税率も改正後ではないかと考えてしまいそうで注意が必要です。
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