「比較情報の取扱いに関する研究報告(公開草案)」が公表されました(その1)
2012年3月27日に日本公認会計士協会から「比較情報の取扱いに関する研究報告」の公開草案が公表されました。>研究報告とはいえ、もう少し早く公表してくれればいいのにという気はしますが、参考になる点も多いので内容を紹介します。
この研究報告は全11問のQ&A形式でまとめられています。
1.比較情報に関する基本的な考え方
まず、Q1で比較情報についての基本的な内容が示されていますが、基本的な内容については“「過年度遡及会計基準適用後の連結財務諸表及び財務諸表の作成にあたっての留意事項」(その1)”などで記載した内容の繰り返しになるので割愛しますが、引当金の計上基準を開示していた引当金がなくなった場合にどうなるのかという点について述べられている点は参考になると思いますので紹介します。
この場合、当事業年度における「重要な会計方針」として「引当金の計上基準」を開示する必要はないと考えられる。ただし、前事業年度に計上していた引当金の重要性が高く、当該引当金の計上基準を開示することが、財務諸表利用者の意思決定に資するものであり、企業の業績等に関する適正な判断のために必要と判断する事項であれば、当事業年度における「重要な会計方針」として「引当金の計上基準」を開示しなければならない(財務諸表等規則第6条、財務諸表等規則ガイドライン6及び財務諸表等規則第8条の5参照)。
原則としては、計上されなくなった引当金の計上基準は削除してよいと考えておいてよいようです。
2.連結財務諸表を開示しなくなった場合、および連結財務諸表を新たに作成することとなった場合の比較情報の考え方
これらについてはQ2およびQ3で取り上げられています。
まず、連結財務諸表を新たに作成することとなった場合には、年度・四半期ともに比較情報が存在しないため開示は不要とされています。
次に連結財務諸表を作成する必要がなくなった場合については、年度と四半期で取扱いが異なります。というのは、年度では個別財務諸表が開示されているのに対して、四半期では個別財務諸表が開示されていないためです。
(1)年度の場合
個別財務諸表は存在するので比較情報として前事業年度に係る個別財務諸表が開示されることになります。
問題はキャッシュ・フロー計算書はどうなるのかですが、「連結キャッシュ・フロー計算書を作成している場合には、個別ベースのキャッシュ・フロー計算書の開示を要しない(「企業内容等の開示に関する内閣府令」第二号様式記載上の注意(71))ことから、対応する比較情報の開示は要しないこととなる」とされています。
つまり、当然作成はできるはずですが、個別ベースのキャッシュ・フロー計算書を比較情報として開示する必要はないということになります。
同様に、連結財務諸表を作成している場合に、個別財務諸表で注記を要しないとされている注記事項(金融商品に関する注記、退職給付に関する注記など)については、前事業年度の個別財務諸表において開示が行われていないので、比較情報の開示は要しないとされています。
そういいつつも、「ただし、前事業年度の個別ベースのキャッシュ・フロー計算書や個別財務諸表に係る「金融商品に関する注記」などを当事業年度の財務諸表に含めて開示した場合には、公認会計士又は監査法人による監査対象となる。」とされている部分が、理解しにくいですが、必須ではない情報をあえて開示することが禁止されているわけではないが、前期開示されていない以上新たに監査してもらいなさいということだと考えられます。
普通に考えて、これを選択することはないのではないかと思います。
(2)四半期の場合
四半期財務諸表の場合は、前期個別財務諸表は開示されていないので、比較情報の開示は不要となります。ただし、年度と同様、あえて比較情報として前期の数値を開示することは可能ですが、監査人のレビューが必要となります。
この他、年度と異なるのは、四半期財務諸表の注記には、金融商品に関する注記のように、「会社の事業の運営において重要なものとなっており、かつ、四半期貸借対照表計上額その他の金額に前事業年度の末日に比して著しい変動が認められる場合」という条件に該当した場合にのみ必要となる注記が存在する点です。
前期末に、個別財務諸表で金融商品に関する注記が記載されていない場合にどのように考えるのかですが、この点については、『「金融商品に関する注記」を行うための個別ベースの情報は存在すると考えられ、前事業年度の末日に比して著しい変動が認められるか否かについては、個別ベースで比較して判断し、比較情報の開示を行うことになると考えられる』とされています。
3.初めて連結財務諸表を作成する場合の会計方針の変更
これは、連結財務諸表の作成を開始した年度において、親会社の個別財務諸表で会計方針の変更が行われている場合、あるいは子会社において会計方針の変更が行われている場合にどうなるのかという内容です。
この点について、年度の場合として以下のように示されています。
連結財務諸表を初めて作成する場合には、比較する前連結会計年度に係る連結財務諸表が作成されていないため、連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項に関する変更(会計方針の変更)については、記載を要しないことになる。ただし、連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項には、連結財務諸表作成の基礎となっている各連結会社の財務諸表の作成に係る会計処理の原則及び手続を含むとされていることから(連結財務諸表規則ガイドライン13―1 2参照)、親会社の個別財務諸表において、会計方針の変更が行われている場合には、当該会計方針の変更に関する注記が必要となる。なお、新規に取得された子会社において会計方針の変更が行われていたとしても、当該会計方針の変更に関する注記は不要となる。
結局いるの?いらないの?と言いたくなりますが、簡単にいえば以下のようになるということだと思います。
①親会社が会計方針を変更している場合
連結初年度であっても「連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項に関する変更」を記載する必要がある
②子会社が会計方針の変更をしている場合
注記不要
なお、四半期の場合は、もともと会計方針が変更されている場合にのみ記載が必要とされているという点は異なりますが、記載を要するか否かについては年度と同様に考えればよいようです。
4.非連結子会社の重要性が高まったため年度の途中から連結子会社とした場合
連結範囲の変更は会計方針の変更に該当しないので、比較情報である前連結会計年度に係る連結財務諸表は修正されないとされています。
なお、非連結子会社に対する支配は期首から継続しているので、当該子会社の期首からの損益を取り込んで連結財務諸表を作成する必要があります。また、年度の連結株主資本等変動計算書では、期首剰余金の変動は「連結範囲の変動に伴う子会社剰余金の増加高」等の名称で表示されることになります。
長くなりましたので、今回はここまでとします。
日々成長。