機能通貨が自国通貨でない場合はどうなる?-IAS21号
今回はIAS21号で定められている「機能通貨」とその会社の自国通貨が異なる場合にどうなるのかです。
IAS21号8項の定義において、「機能通貨」とは、企業が営業活動を行う主たる経済環境の通貨をいうと定められています。
機能通貨の決定にあたって考慮しなければならない点については、以前“機能通貨の変更の処理-IAS21”というエントリで書いたので興味のある方はそちらをご覧ください。
一方で、同8項では「外国通貨」とは企業の機能通貨以外の通貨をいうとされています。
一般的に、各社が所在する国の通貨が機能通貨であることが多いと思いますが、日本国内の会社の機能通貨がUSドルであるということもあり得ます。この場合、その会社にとって日本円は「外国通貨」(原文の表現:“Foreign currency”)ということになります。
この「外国通貨」という表現は、相当違和感があるものの、上記のとおり、定義において機能通貨以外の通貨が外国通貨であるとされている以上、ある会社の自国通貨も「外国通貨」となりうるわけです。別の表現もあり得たのかもしれませんが、大多数のケースでは自国通貨=機能通貨となり、機能通貨以外を「外国通貨」としたほうが理解しやすいので、このような表現が用いられたのではないかと思われます。
では、仮に不幸(?)にも日本にある会社の機能通貨がUSDであるというように自国通貨と機能通貨が異なってしまったらどうなるのでしょうか?
IAS21号21項では、「外貨建取引は、機能通貨による当初認識においては、取引日における機能通貨と当該外貨間の直物為替レートを外貨額に適用して機能通貨で計上しなければならない。」とされています。
これを上記のケースにあてはめると、「日本円の取引は、USDによる当初認識において、取引日におけるUSDと日本円の直物為替レートで換算して、USDで計上しなければならない」ということになります。
素直に解釈すれば、USドルで記帳するのが自然です。「IFRS国際会計基準の初度適用 新日本監査法人」のP563でも、
留意すべき点として、たとえば、親会社自身の機能通貨が円ではなくUSDと判定された場合には、USDで記帳及び業績と財政状態を確定させる必要がある。そして、一方で連結財務諸表の表示通貨は円となる場合には、親会社からも累積換算差額(為替換算調整勘定に相当)が生じることとなる。この場合には、USDで帳簿記録も可能になるように、システム対応を検討する必要があるものと思われる
と解説されています。
確かに会社法で要請される円ベースでの計算書類とIFRSに準拠したUSDを機能通貨とする財務諸表を作成しなければならないとすると、日本円とUSDの両方の帳簿を持てるようなシステムがあったほうが便利なことは間違いありません。
IFRSの強制適用が先送りとなった今となっては、「システム対応」にお金をかけられる会社が任意適用すればよいだけなので構いませんが、仮にIFRSが強制適用された場合にシステムにそれほどお金をかけていられない会社はどうするのか?
その場合は、現地通貨の財務諸表を機能通貨に換算して、あたかも機能通貨で記帳していた財務諸表を作るという方法を採用することになると考えられます。
実際、IFRSを適用している海外子会社で自国通貨以外の機能通貨を選択している会社があったりしますが、規模から考えて、現地で使用している会計システムが多通貨での帳簿をもてるほど高度なシステムであるとはとても考えられません。
そうはいうものの、あたかも機能通貨で記帳していた財務諸表を作るのは取引ごとに換算を行い直すということなので、現実的には難しいと考えらえます。
一方で、IAS21号22項では、21項を原則としつつも、「実務上の理由から、取引日の実際レートに近似するレートが用いられることもよくある。例えば、1週間又は1か月の平均レートが、当該期間に発生したそれぞれの外貨建のすべての取引に用いられることがある。」として、為替の変動が激しくない限りにおいては平均レートの使用も許容されます。
したがって、結局のところ、日本基準でいうところの在外支店の換算に類似した処理を行うというのが現実な方法だと考えられます。
つまり、期末時点でBS項目のうち貨幣項目はCR換算し、非貨幣項目はHR換算、当期利益を除く純資産項目は基本的にHRし差額を当期利益で確定し、PL項目はARで換算し、当期利益との差額を為替差損益として計上するという方法です。
ただ、この方法によってもPL項目の換算を四半期通期で換算してよいのか一月単位で積上げなければならないのか、棚卸資産の換算をどこまで厳密にやるのか等々検討課題は多々あると思いますので、実現可能な落としどころを探していくという作業が必要となるのではないかと思います。
日々成長