包括利益の表示に関する会計基準の復習(設例1)-親会社がその他有価証券の一部を売却
「包括利益の表示に関する会計基準」(以下、包括利益会計基準)は平成23年3月期から、税効果および組替調整額の注記も平成24年3月期から適用開始となっていますが、そもそも連結財務諸表を作成していなければ関係ないことや、追加の仕訳が必要となるようなものではないことから、よくわからないという経理担当者も多いような気がします。
「包括利益」が、なんとなく理解しにくいのは、個人的には最終的な表示方法に原因があるのではないかと思います。1計算書方式を前提とすると、従来のゴールであった当期純利益を求めた後に、当期純利益→少数株主損益を加減→少数株主損益調整前当期純利益を算出→その他の包括利益を加減→包括利益の算出という過程をたどることになります。つまり、当期純利益をボトムとすると、そこからV字に「包括利益」というものを算出しに戻るようなイメージとなって、何故このような面倒な流れになっているのかが理解しにくいということにつながっているのではないかと思います。
例えば、少数株主損益調整前当期純利益→その他の包括利益を加減→包括利益の算出→少数株主損益の加減→当期純利益の算出、というような表示になっていれば少しは理解(納得)しやすいのではないかと思います。
そうは言っても決まっていることは仕方がありません・・・。基準の内容については以前書いたので、基準で設例として示されているものの内容を随時、順番に確認していくことにします。
ということで、今回は「包括利益の表示に関する会計基準」の設例1(親会社がその他有価証券の一部を売却した場合)についての内容について確認します。設例1の内容は以下のようになっています。
[設例1] 親会社がその他有価証券の一部を売却した場合
1. 前提条件
(1) P社はS1社株式の70%を保有し、S1社を連結子会社としている。
(2) P社及びS1社の法定実効税率は40%である。
(3) P社はその他有価証券としてA社株式及びB社株式を保有しており、X1年3月期にA社株式(取得原価1,000)をすべて売却した。A社株式の期首の評価益は300であったが、売却時までに評価益は200減少し、投資有価証券売却益は100であった。S1社はその他有価証券を保有していない。なお、P社が保有するその他有価証券残高の増減内訳及び評価損益の増減内訳は次のとおりである。(ここでは理解を深めるため、評価損益の増減内訳を銘柄別に作成している。)
上記の前提条件で70%保有のS1社が登場しますが、その他有価証券はいずれも親会社が保有していますので、ここでは連結財務諸表作成会社であるという位の意味しかないといえます。ここで、注意が必要なのは、期中に売却したA社株の「売却による組替調整額」(税効果前)が「△100」であるという点です。
期首時点でのA社の評価益(税効果前)は300であり、単純にこの金額が組替調整額となるのではないかと考えてしまいがちですが、組替調整額として注記すべき金額は、「当期純利益を構成する項目のうち、当期又は過去の期間にその他の包括利益に含まれていた部分」(包括利益会計基準第9項)とされていることから、当期(売却期)に生じた変動についても組替調整額の対象となります。
面倒な感じがしますが、売却時までの変動が組替調整額となることによってPLで計上された売却損益の額が組替調整額(税効果前)となることから、金額の把握は行いやすいものと考えられます。ただし、税効果額の把握については注意が必要です。例えば、損失尻の評価差額金に対しては繰延税金資産が計上されていないことがあるため、単純に税効果前の組替調整額×実効税率で税効果額が計算できません。そのため、上記で示されている仕訳で、税効果見合いの部分については補助コード等を用いて金額を集計しやすいように工夫しておいたほうがよいと考えられます。
(4)P社の連結貸借対照表、連結損益計算書、連結株主資本等変動計算書の抜粋は次のとおりである。
2. 連結包括利益計算書の作成
ここでは、2 計算書方式により連結包括利益計算書を作成する場合の例を示している。なお、その他の包括利益の内訳項目は税効果調整後の金額で表示する場合の例である。(*4) 本設例では、その他有価証券を保有しているのは P 社のみであるため、連結株主資本等変動計算書の株主資本以外の項目の当期変動額(純額)のその他有価証券評価差額金 300(1.前提条件(4)③参照)と一致する。なお、その他有価証券の評価損益の増減内訳のうち税効果調整後評価損益の期首残高 900 と期末残高1,200 の差額 300 にも一致する(1.前提条件(3)参照)。
(*5) 当期純利益 2,660と連結株主資本等変動計算書の株主資本以外の項目の当期変動額(純額)のその他有価証券評価差額金 300(1.前提条件(4)③参照)との合計2,960 と一致する。
「連結包括利益計算書」に記載されている「その他有価証券評価差額金」300は、前提条件で示されていた「その他有価証券の評価損益の増減内訳」で示されてい税効果調整後評価損益の期末残高1200から期首残高900を差し引いた金額となっています。税効果の金額がきちんと管理されていれば、特に難しくないと思いますが、ここで注意しておいた方がよいのは、(*4)で示されている「本設例では、その他有価証券を保有しているのは P 社のみであるため、連結株主資本等変動計算書の株主資本以外の項目の当期変動額(純額)のその他有価証券評価差額金 300(1.前提条件(4)③参照)と一致する。」という部分だと思います。
つまり、少数株主がいる子会社に有価証券評価差額金が存在する場合には、連結株主資本等変動計算書のその他有価証券評価差額金の「当期変動額(純額)」の金額とは一致しないということになります。その他の包括利益は少数株主持分も含んだ概念であり、連結株主資本等変動計算書では少数株主持分は独立項目として表示されるので、両者が一致しないことは当たり前ではありますが、子会社で新規に時価評価されるその他有価証券を購入したというような場合は、従来一致していた部分が一致しなくなりますし、包括利益の内訳として開示する少数株主に係る包括利益にも影響するので注意が必要です。
3. その他の包括利益の内訳の注記例(連結)
ここでは、組替調整額と税効果を併せて開示する場合の例を示している。
(*6) 当期発生した評価損益(1.前提条件(3) その他有価証券の評価損益の増減内訳のうち当期発生額(差額)の合計欄参照)
(*7) 組替調整額(1.前提条件(3) その他有価証券の評価損益の増減内訳のうち売却による組替調整額の合計欄参照)
(*8) その他有価証券評価差額金に係る税効果の当期変動額 200(=△40+240)(1.前提条件(3) その他有価証券の評価損益の増減内訳のうち税効果額欄参照)
上記が、税効果および組替調整額の注記内容となり、税効果考慮後の「その他包括利益合計額」が連結包括利益計算書の金額と一致することになります(税効果後の金額を開示している場合)。
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