監督官から呼び出しがきた!労基署 調査・指導・是正勧告対応の現場
ある会社に労基署から監督官がやってきました。退職した従業員による申告によりやってきたとのことで、何故やって来たのかが明らかであったため対応は比較的やりやすかったですが、ちょうど「監督官から呼び出しがきた! 労基署 調査・指導・是正勧告対応の現場」(吉本俊樹 著)という本が日本法令から発売されていたので、参考に読んでみました。
本のかなりの部分を労働行政の変遷や最近の傾向に割かれているので、対応方法がみっちり書いてあることを期待すると多少期待はずれかもしれませんが、個人的には勉強になりました。
また、きれいごとだけでなく実際に必要と思われることが書いてある印象です。たとえば、「内部告発が想定された場合、会社側が留意する点は三つあります。第一に、いわゆる「犯人探し」をすることです。通常は、犯人探しをしないように指導されます。しかし、今後も内情が監督官に伝わりますから、どこまで内部情報が漏洩しているか予想しておくべきですし、きれいごとではなく「犯人探し」は必要なのです。」と述べられており、社労士として書きにくいことを書いてくれています。
また、最初の方に、各年度の労働行政運営方針を確認して、行政のスタンスを確認するということが書いてありますが、今まで自分にはなかった視点であり、勉強になりました。
厚生労働省が各年度の労働行政運営方針を公表し、それに基づいて各都道府県の労働局が労働局行政運営方針を作成し公表していいます。
厚生労働省が発表した「平成24年度地方労働行政運営方針の策定について」では「平成24年度地方労働行政の課題」が以下のように記載されています。
(1)東日本大震災からの復旧・復興支援及び円高への対応
被災地域の強みである農林水産業、製造業、観光業の復興を始め、地域包括ケアの推進、再生可能エネルギー等新産業の導入等の産業政策と雇用面の支援を一体的に進め、事業復興型雇用創出事業等により被災地域の本格的な安定雇用を生み出すとともに、円高による「痛み」を緩和するために、雇用創出基金事業の活用による雇用機会の確保等、機動的な雇用対策に万全を期す。(2)「全員参加型社会」の実現に向けた雇用・生活安定の確保
若者・女性・高齢者・障害者の就労促進による「全員参加型社会」の実現をすすめる。また、日本の成長力を支える人材の育成、地方自治体や民間事業者等と連携した重層的なセーフティネットの構築を図る。(3)「ディーセント・ワーク」の実現に向けた安心して働くことのできる環境整備
ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現のため、非正規雇用の労働者の雇用の安定・処遇の改善、ワーク・ライフ・バランスの実現、労働者の安全と健康確保対策、良質な労働環境の確保を図る。
また「平成24年度地方労働行政の重点施策」に記載されている「労働基準行政の重点施策」としては以下の項目が掲げられています。
労働条件の確保・改善対策
長時間労働の抑制や賃金不払残業の防止のための監督指導等の法定労働条件の確保、外国人労働者等の特定労働分野における労働条件の確保対策等を推進する。
最低賃金制度の適切な運営
最低賃金の周知徹底を図るとともに、最低賃金引上げに向けた中小企業への支援を行う。
適正な労働条件の整備
長時間労働の抑制及び年次有給休暇の取得促進等を推進する。
労働者の安全と健康確保対策の推進
労働災害防止対策を安全衛生対策の最重点課題とし、労働災害多発分野における対策、メンタルヘルス対策及び過重労働による健康障害防止対策、石綿健康障害防止対策を推進する
労災補償対策の推進
労災保険の迅速・適正な処理、精神障害等事案及び脳・心臓疾患事案に係る適正な処理を行う。
これを受けて例えば東京労働局では「平成24年度 東京労働局行政運営方針の概要」で最重点目標として以下の三つを掲げています
◆ハローワークのマッチング力を強化し、安定した雇用の実現を図ります。
◆ 働き過ぎ、賃金不払、解雇などの問題に、優先的に対応します。
◆ 男性も女性も安心して働ける環境を作ります。
会社側としては、やはり2番目の「働き過ぎ、賃金不払、解雇などの問題に、優先的に対応します。」に注意が必要ではないかと思います。
具体的には以下の項目が掲げられています。
・長時間労働の抑制、過重労働による健康障害の防止、賃金不払残業の解消を図ります。
・賃金不払や解雇などの申告事案に、優先的に監督指導などを実施します。
・労働災害防止対策、メンタルヘルス対策などの推進を図り、労働者の安全と健康の確保に努めます。
・改定された最低賃金の周知・広報と履行確保に努めます。
・労働に関する相談に的確に対応します。
また、「 男性も女性も安心して働ける環境を作ります。」という具体対的な項目に、「改正育児・介護休業法の全面施行にあたり、中小企業を中心に、改正内容の周知徹底を図り、規定整備、制度の定着を促進します。」というものが含まれています。
したがって、改正育児・介護休業法の対応ができていないと未払残業代の申告にあわせて指導(勧告)される可能性が高く注意が必要です。
雇用情勢が悪いなかで労働者保護が強まるとかえって雇用が促進されないのではないかと思いますが、そうはいっても法は法で、順守していなければ違法となってしまいます。会社としては頭の痛い問題ですが、何とか対応していくしかありません。
日々成長