税務上の「のれん」とは?(その2)
前回は、税務上の「のれん」と呼ばれるものには、法人税法定められている資産調整勘定と三つの負債調整勘定が存在するということと、それぞれの調整勘定がどのようなものかを確認しました。
今回は、それぞれの調整勘定の税務上の取扱いについて確認することにします。なお、各調整勘定の金額の算定方法については、一般的には税理士任せでよさそうな気がしますので、調整額計上後の取扱いについて確認することにします。
1.資産調整勘定
資産調整勘定については、以下の算式により計算した金額を減額し、各事業年度の損金の額に算入しなければなりません。
ここでのポイントは、「損金の額に算入できる」ではなく「算入しなければならない」という点です。
この点において減価償却資産とは取扱いが異なるという点に注意が必要です。減価償却資産であれば、償却限度額を超えて損金算入することはできませんが、一方で償却限度額以下であれば、損金軽視した償却が0であっても問題ありませんが、資産調整勘定の場合はそうはいかないということになります。このため、細かい点ではありますが、資産調整勘定の場合は「償却」ではなく「減額」というのが適切な表現となります。
この処理を定めている法人税法62条の8第4項の規定は以下のようになっています。
4 第一項の資産調整勘定の金額を有する内国法人は、各資産調整勘定の金額に係る当初計上額(非適格合併等の時に同項の規定により当該資産調整勘定の金額とするものとされた金額をいう。)を六十で除して計算した金額に当該事業年度の月数を乗じて計算した金額(当該内国法人が自己を被合併法人とする合併(適格合併を除く。)を行う場合又は当該内国法人の残余財産が確定した場合にあつては、当該合併の日の前日又は当該残余財産の確定の日の属する事業年度終了の時の金額)に相当する金額を、当該事業年度(当該内国法人が当該合併を行う場合又は当該内国法人の残余財産が確定した場合にあつては、当該合併の日の前日又は当該残余財産の確定の日の属する事業年度)において減額しなければならない。
なお、上記で示した算式では60ヶ月で按分するようにみえますが、事業年度の途中における非適格合併等で資産調整勘定が発生した場合、減額すべき額の算定にあたっては月按分は行わず、5年にわたって均等に減額することになる点には注意が必要です。事業年度が12カ月である限りにおいては1/5ずつ減額ということになります。
2.退職給与負債調整勘定
退職給与負債調整勘定については、退職給与債務の引き受けの対象となった従業員が退職その他の理由により従業者でなくなった場合、又はその従業者に対して退職給与を支給することになった場合に、取り崩しを行い、その事業年度の益金の額に算入しなければならないものとされています(法人税法62条の8第6項1号、第8項)。
そして、取り崩すべき退職給与負債調整勘定の金額の算出方法には以下の二つの方法が認められています。
②1人当たりの退職給与負債調整勘定の平均額×退職者等の人数
通常は②になるのではないかと思いますが、①の方法を選択した場合には、その後の事業年度において②の方法を選択することはできないものとされている点に注意が必要です。
また、退職給与負債調整勘定についても、「取崩し」は任意ではなく強制であるという点は資産負債調整勘定と同様であり注意が必要です。
3.短期重要負債調整勘定
短期重要債務見込み額に係る損失が生じた場合には、短期重要負債調整勘定のうち、その損失の額に相当する金額を減額し、益金の額に算入しなければならないとされています。なお、短期重要負債調整勘定は、対象がおおむね3年以内に発生が見込まれるものに限られていることから、非適格合併等の日から3年を経過した場合において、未取崩しの額が存在する場合には、3年を経過した日においてその金額を益金の額に算入しなければならないとされています。
4.差額負債調整勘定
差額負債勘定は、会計上の負ののれんに類似した概念ですが、会計上、負ののれんが発生時に利益に計上されるのに対して、差額負債調整勘定は、資産調整勘定と同様の処理が行われます。つまり、以下の算式で計算された額を5年にわたって益金の額に算入することになります。
事業年度中に発生した場合であっても月按分を行わず5年均等で益金の額に算入するという点、および「取崩し」は任意ではなく強制であるという点は資産調整勘定と同様です。
今回はここまでにします。
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