現物出資の消費税には要注意-税理士法人プライスウォータクーパース ニュースレターより
8月に税理士法人プライスウォータークーパースから「現物出資に関する消費税の問題」というニュースレターが発行されており、その内容が興味深かったので紹介します。
現物出資の際の消費税など意識したことはありませんでしたが、組織再編について法人税における取扱いと消費税における取扱いが一致していないことから、実務上は問題が生じるというものです。
取扱いを要約すると以下のようになっています。
1.法人税
①合併・会社分割・現物出資
税制適格要件を充足していれば課税繰延処理、そうでなければ課税処理(*)
②事業譲渡
課税処理処理(*)
(*)グループ法人税の適用対象となっている場合も繰延処理となる
2.消費税
①合併・会社分割
包括承継のため法人税法上の適格・非適格にかかわらず消費税の課税対象外
②現物出資
消費税法施行令2条1項2号において「金銭以外の資産の出資(特別の法律に基づく承継に係るものを除く。)」が消費税法2条1項8号の「対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為」に該当するとさていることから課税対象
③事業譲渡
資産の譲渡等として課税対象
上記から、現物出資については法人税法上は適格現物出資により簿価で移転するが、消費税法上は時価で課税対象となる場合が存在し、「法人税法上の処理と消費税の経理処理が必ずしも明確になっていないのではないかとの指摘が従来からあります。」と上記のニュースレターでは解説されています。
そして、どのような問題が生じるのかについて、消費税の経理処理が税抜方式の場合と税込方式の場合で検討が加えられています。
ここが面白い点ですが、消費税の経理処理を税込処理で行っている場合においては現物出資でも特に問題が生じることはないのに対して、税抜処理を採用する場合は問題が生じてしまうということです。
<税抜処理の場合>
(前提)
時価100(簿価も100)の資産を現物出資して対価として子会社株式を取得する適格現物出資とする。
この場合、時価100を税抜価格と考える方法と税込価格と考える方法が考えられます。
①税抜価格と考える方法
この場合、取引価額は消費税5が加算されて105となります。仕訳で考えると以下の仕訳となります。
ところが、法人税法上、現物出資法人が適格現物出資によって取得した子会社株式の取得価額は移転資産の簿価純資産額とされています(法人税法施行令119条1項7号)。
したがって、消費税分(5)だけ子会社株式の取得原価(105)が法人税法条で規定する取得原価(100)と差が生じることになります。一方で、現物出資を受けた側では、資本金等の増加額は、移転資産の簿価純資産額(100)とされているので、仮払消費税(5)の相手勘定が浮いてしまうということになります。
②税込価格と考える方法
つまり、簿価100の資産を無理やり消費税込と考えるため、当該資産が移転したのにかからわず、現物出資法人の当該資産の簿価が0にはならないということになっていまうという問題が生じます。
一方で、現物出資を受けた側については特に述べられていませんので、この場合は特に問題がないということだと考えられます。仕訳で考えると以下のようになると考えられます。
資本金の額は移転した簿価純資産の価額になっていますし、特に問題はないようです。なんとなくだまされた感じがしますが、税抜方式を採用しつつ、消費税込の時価=簿価を仮定しているため、税抜ベースで考えると時価が簿価を下回るという状況が前提になっているためだと思います。
<税込処理の場合>
前述のとおり、税込方式の場合は、税抜方式のような問題は生じません。これは、「現物出資法人としては、現物出資の対価である子会社株式の取得価額(100)を消費税込の対価として考えることになりますが、移転資産の簿価純資産額(100)と等しくなりますし、被現物出資法人としては、移転資産の簿価純資産額(100)と資本金等の増加額(100)とが等しくなりますので、法人税法上の規定と整合する」ためです。
なお、この場合、消費税相当額は法人税等とは別途計算され、消費税納付時に租税公課等として処理されることになります。
以上のことからすると、現物出資を行う場合は税込方式が望ましいということになりそうですが、そうはいっても会計監査を受けるような会社は基本的に税抜方式を採用しているので、その場合どうなるのか?です。
PWCのニュースレターでは、この点を踏まえて、原則的には、個々の取引で税抜方式と税込方式の選択適用は認められないものの、現物出資についてのみ税込方式を採用することができないかという検討が加えらえています。
結論としては、現物出資についてのみ税込処理を適用するという処理について、「他に代替的な処理方法がなく恣意性をもって行われるものでないとすれば、税務上認められる可能性があるものと考えられる」としています。
ただし、原則的には個々の取引について選択適用は認められないことから「実際の処理にあたっては、より慎重な検討が必要になるのはもちろんのこと、個別に税務当局に照会することが推奨されます。」とされています。
勉強になったニュースレターでした。
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