厚生年金基金の実態と廃止に向けた問題は?(その2)
前回の続きです。
3.厚生年金の積立状況
平成18年度から平成22年度の積立状況の推移は以下のようになっています。
平成20年度の大幅なマイナスはリーマンショックによるものとはいえ、平成19年度以降はマイナス続きとなっています。さらに、今後も日本経済が大きく伸びていくことは期待できそうもないので、かなり厳しい状況にあるといえそうです。
「代行割れ」(積立金が代行部分の最低責任準備金を下回る状況)の状況にある厚生年金基金は、平成18年度末では19基金でしたが、リーマンショックにみまわれた平成20年度では617基金中478基金が代行割れとなり、その後の株価回復により代行割れを脱することができた基金も多いものの平成22年度末でも584基金中212基金が代行割れの状況にあります。そして、設立形態別にみると、代行割れ基金のうち206基金が総合型基金となっています。
この代行割れの状況を脱出するための方法としては、以下の三つの方法があります。
①掛金をあげる(収入を増やす)
②給付費用を減らす(支出を減らす)
③運用利回りの向上
まず③の運用利回りの向上については、これが容易に可能であるなら代行割れに陥っているはずはないので現実的には取りえない選択肢だと思います。
次に①については、総合型の厚生年金金では実現が難しい方法です。というのは、資本関係等がない加入企業間で掛金を増加しようとしても業績の苦しい会社などが反対し、掛金を増額させるのが困難なためです。
最後に②については、前回示したように総合型の上乗せ部分は月6千円程度しかなく、法令で上乗せ部分は代行部分の1割以上は必要とされていることから給付を減額する余地ないに等しい状況です。
というわけで、代行割れを脱出するための方策をとろうにもとれる選択肢がないに等しい状況となっています。
4.総合型の厚生年金基金を脱退するには?
上記で述べたように現実問題として、代行割れに陥っている総合型厚生年金金が事態を打開しようとするのはかなり厳しい状況にあります。であれば、厚生年金基金を解散あるいは代行返上してしまえばよいということになりますが、全加入事業主の3/4以上の同意と、全加入員の3/4以上の同意が必要となり非常に時間がかかります。
そこで任意脱退という手段がありますが、この場合には脱退時に特別掛金の一括拠出が必要となります。つまり、自分の積立不足に相当する掛金を払ってからでないと脱退させてもらえないということです。
それでも体力のある会社であれば脱退可能なので、厚生年金基金の財政状態の悪化を懸念して体力のある会社から脱退していけば、残された厚生年金金の実態はさらにひどい状況に陥っていくことになります。
現実的に身動きがとれない総合型厚生年金基金が多数存在し、代行割れの状況を打開しようとAIJのような運用にひっかかってしまうような事態が生じてきたので10年後に廃止しようというのもわからなくはありません。しかしながら、報道を見る限り代行割れ部分については母体企業に負担を求めるというスタンスのようですので、その余力がない企業に対してどのような方策をとっていくのかが気になります。
基金の代行割れの影響が、知らぬ間に厚生年金保険料に反映されることがないように祈ります。厚生年金保険料は平成29年9月に18.3%になって打ち止めと信じましょう・・・
日々成長