MAKERS(クリスアンダーソン)を読んで
書店でクリス・アンダーソンの新著「MAKERS」を発見し、「製造業の未来がここにある!」「ベストセラー「フリー」を超える衝撃!」という帯のタイトルから面白そうだったので購入しました。
「フリー」でさんざんビットの世界について書いていた筆者がアトムの世界について何を書くのだろう?という点に興味がありましたが、結論からすれば両者は分断れた事象ではなく「フリー」化しているビットの世界がアトムの世界である製造業のあり方に大きく影響を与えつつあるという内容でした。
デジタル製造技術は規模の経済が働かず、1000個作るのも、1個作るのも単位当たりのコストに違いがないので大量ロット生産なら従来型の生産がいまのところベストであると筆者は述べています。一方で、世の中には数百個単位で作った方がよいものが多数存在し、大量生産の基準を満たせないがために手作り商品しかなく、非常に高額であったニッチ商品が手の届くようになるとしています。そして、「デジタル生産は、これまでのものづくりをひっくり返すものだ」とまで述べています。
同時に、以前であれば製造設備が一般人には解放されておらず、何らかの事業を起こそうとすれば相当なリスクを背負って設備や原材料等を調達しなければならなかったが、現在であればCADで制作したデザインを送れば製造を行ってくれる業者が多数存在し、そうした意味で一個人がメイカーとして活躍しやすい環境が整ってきているとされています。
ボストンコンサルティンググループの試算によると、中国での製造コストは2015年にはアメリカに並ぶそうです。工場のオートメーション化がさらに進めば製品中の人件費の割合がさらに下がることになることから、安い人件費のメリットは縮小し、そのほかの要素(最終消費者との距離や輸送のコスト、柔軟性、品質、信頼性)が重要になってくるとされています。
例として、「キャタピラー社はテキサスでの採掘機の製造を三倍に拡大し、500人の工場労働者を新たに雇用している。テキサス州は顧客にもサプライチェーンにも近いからだ。NCRはATMの製造拠点を中国からジョージア州コロンバスへと移し、より迅速な市場化と者に協調の改善を目指している。さらに、おもちゃ会社のワム・オーでさえ、中国でのフリスビー生産の半分を自動化と効率化の進むアメリカの工場へと戻した。」と述べられています。これは、日本にとっても明るい話題のように思います。
ただし、筆者は中国やその他の低コスト諸国への生産委託がなくなるといっているわけではなく、それが唯一の選択肢ではないし、規模によっては地元に近いところでの生産のほうが望ましい場合があるとしています。また、オートメーション化がさらにすすめば中国などとの生産コストの差はさらに縮小するはずとしています。
結局のところ最後は、顧客ニーズの把握とデザイン力がものをいうということになるのだと思います。なお、顧客ニーズの有無を把握する上で筆者はコミュニティーの活用方法につても述べていてこれも興味深い内容でした。
デザインセンスの有無にかかわらずCADをいじってみたくなるような一冊でした。
日々成長