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貸倒引当金繰入額と戻入益の相殺表示

今回は貸倒引当金繰入額と戻入額の相殺表示についてです。

貸倒引当金繰入額と戻入額の相殺表示については、金融商品会計実務指針125項で以下のように定められています。

当事業年度末における貸倒引当金のうち直接償却により債権額と相殺した後の不要となった残額があるときは、これを取り崩さなければならない。ただし、当該取崩額はこれを当期繰入額と相殺し、繰入額の方が多い場合にはその差額を繰入額算定の基礎となった対象債権の割合等合理的な按分基準によって営業費用(対象債権が営業上の取引に基づく債権である場合)又は営業外費用(対象債権が営業外の取引に基づく債権である場合)に計上するものとする。また、取崩額の方が大きい場合には、過年度遡及会計基準第55項に従って、原則として営業費用又は営業外費用から控除するか営業外収益として当該期間に認識する。

過年度遡及会計基準が適用になって、取崩額の方が大きい場合の表示が特別利益から営業外収益になったという点は、最近よく見た気がします。

ところで、大手監査法人等が出版している書籍をいくつかみてみたものの、上記の相殺表示の仕方については、基本的に上記の内容を、そのまま記載しているような内容になっており、具体的な例として説明されている書籍が見当たりませんでした。

読めばわかるということなのかもしれませんが、そんなに単純ではないような気もします。

貸倒引当金の処理方法については、金融商品会計実務指針の122項で以下のように定められています。

債権の貸倒見積高を算出する方法には、個々の債権ごとに見積もる方法(以下「個別引当法」という。)と債権をまとめて過去の貸倒実績率により見積もる方法(以下「総括引当法」という。)とがあるが、貸倒引当金の繰入れ及び取崩しの処理は、引当の対象となった債権の区分ごとに行わなければならない。

そして、上記でいうところの「債権の区分」は、106項において原則的には一般債権、貸倒懸念債権、破産更生債権等の三つに区分することとされています。したがって、122項によると一般債権、貸倒懸念債権、破産更生債権に区分して繰入と戻入の処理を行うということになります。

ここで、貸倒懸念債権として前期において引当金を計上していた売掛金が200、貸付金が500あった場合に、今期新たに貸倒懸念債権の売掛金が100(営業費用)、貸付金(営業外費用)が100発生し、一方で引当対象となっていた貸付金が50回収できた場合に表示がどうなるのか?

上記は繰入200に対して戻入が50なので純額で150の繰入になるのは明らかです。そして、債権の区分はいずれも貸倒懸念債権なので122項の定めによれば、この単位で処理を行う必要があるということになります。そして125項の定めにしたがって、繰入額算定の基礎となった対象債権の割合等合理的な按分基準によって按分しようとすると、150の純額の繰入額を新たに計上対象となった売掛金100と貸付金100の割合で按分することになるので、営業費用が75、営業外費用が75となります。

しかしながら、戻入額は全額営業外費用で繰入れた引当金から生じていることからすると上記の結果はあきらかに不合理です。「合理的な按分基準によって」区分することとされているわけですから、上記の例でいえば、純額の150は営業費用100、営業外費用50とするのが妥当ということになると考えられます。

この点について、一般債権の貸倒実績率については、金融商品実務指針の110項において、「債権全体又は同種・同類の債権ごとに、債権の状況に応じて求めた過去の貸倒実績率等合理的な基準により貸倒見積高を算定する」とされています。

そして、「同種とは売掛金・受取手形・貸付金・未収金等の別における同一のものをいい、また、同類とは同種よりもより大きな区分、すなわち、営業債権と営業外債権の別における同一のもののほか、短期と長期の期間別区分をいう。」(110項)とされています。

貸倒懸念債権や破産更生債権等については個々に引当額(繰入・戻入)が検討されているはずですので、一般債権について「営業債権と営業外債権の別」に従って実積率を計算し、引当額を計算している場合であれば「繰入額算定の基礎となった対象債権の割合等で按分」するよりも合理的に営業費用と営業外費用の区分が可能と考えられます。

一方で、一般債権について「債権全体」あるいは「短期と長期の期間別区分」で貸倒実績率を計算しているような場合には、営業債権と営業外債権が混在した債権に対する貸倒実績率となるため、対象債権の割合等で按分せざるを得ないということになります。

例えば、短期と長期で区分して貸倒実績率を計算しているケースで考えます。前期末の短期項目で一般債権として貸倒引当金の対象となった債権は売掛金1,000、短期貸付金1,000のみで貸倒実績率は2%、長期項目で対象となった債権が長期貸付金500で、貸倒実績率が1%であったとします。

この場合、貸倒引当金の計上額は短期項目で2,000×2%=40、長期項目で500×1%=5となります。そして、営業費用に計上する繰入額は40(短期項目の繰入額)×1,000(営業債権)/2,000(対象短期債権合計)=20と計算され、残りは営業外と計算されることになると考えられます。

そして、貸倒実積率は変動しないとして、当期末の短期項目の売掛金が1,500、短期貸付金700、長期項目が長期貸付金300になったとします。この場合、短期項目の引当金は(1,500+700)×2%=44、長期項目の引当金は300×1%=3と計算されます。残高合計では2増加となります(45→47)ので繰入額が2生じます。このような場合の繰入額2を営業費用と営業外費用にどのように按分するかという場合に、営業債権1500:営業外債権1,000で按分して営業費用を2×1,500/2,500=1.2とするということだと考えられます。

繰入額となった場合に「差額を繰入額算定の基礎となった対象債権の割合等合理的な按分基準」を使うという部分のみ頭にあるとよくわからなくなりそうです。

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