手形の紛失・盗難が生じた時の手続について
今回は手形を紛失したり、盗難にあった時の手続きについてです。
会計士や税理士の場合、手形をみることはあるものの、振出等の実務は行ったことも多いのではないかと思いますが、会社の担当者は当然知っているかのごとく手形の実務について質問されることがあるので確認することにした次第です。
手形を紛失したり、盗難にあった場合の業務手順は以下のようになります。
1.銀行に連絡して支払いを止めてもらう。
2.警察に紛失・盗難の被害届を提出する。
(手形が出てこなければ)
3.裁判所に公示催告の申立をする。
4.除権判決をもらう。
5.判決正本で振出人に手形代金の支払いを求める。
上記の手順のポイントは、何と言っても、まず銀行に連絡するという点です。もっとも、支払われる前に銀行に連絡しても、紛失あるいは盗難にあった手形が第三者に善意取得されてしまえば、手形の所有者が正当な権利者として手形代金の支払いを受けられることは変わりがありませんが、それ以外の所持人に対して手形代金が支払われるのを防止することができます。
また、「善意取得」とは、有価証券たる手形の取引上の安全を確保するために認められている制度で、手形の無権利者(例えば、その手形を盗んだドロボー)からであっても善意にその手形を取得(例えば裏書を受けた)した第三者の権利は保護されるというものです。
つまり、紛失した手形が善意の第三者に善意取得されてしまうと、その手形代金の支払いを受けることができるのは、手形の所持人たる第三者となってしまいます。
手形の紛失・盗難の場合で、幸い(?)にも手形が行方不明の場合は、裁判所に公示催告の申立てをして除権判決を得ることによって、なくなった手形を無効にすることができます。
公示催告の申立は、手形の支払地を管轄する裁判所に行います。この申立てがなされると「〇〇〇の手形を所持している者はX年X月X日までに裁判所に届け出ること。もし届け出ない場合は、その手形は無効になる」という旨が官報と裁判所の掲示板で公示されます。
一般的に、自分の所持している手形が官報に掲載されているかなど、いちいちチェックしてはいないと思いますので、この手続きにどれほどの意味があるのかは疑問ではありますが、手形を無効にしてもらうためには必須の手続きとなっています。官報への掲載日から公示催告日までの期間は少なくとも6ヶ月とされています。6か月間も若干長い気がしますが、この期間はなくなった手形が善意取得される可能性がある期間となります。
上記期間中に手形の所持人が現れなかった場合には、手形を無効とする除権判決が出ます。除権判決が出ると、それ以降は善意取得が認められなくなります。逆に言えば、除権判決をもらっても、除権判決より前に成立した善意取得が無効になるわけではないので、絶対的に安心というわけではありません。
なお、公示催告の申出から除権判決が出るまでに、通常は8カ月程度かかるとされています。
最後に、受取手形を紛失した場合に、会計処理はどうなるのかです。いままで経験したことがありませんが、除権判決を得るまでは受取手形に計上しておき、除権判決を得た段階で未収入金などの勘定に振り替えることになるのではないかと考えられます。
また、貸倒引当金を計上すべきかという点も問題となりますが、善意取得した第三者が現れたというような状況でなければ、個別の対応は不要ではないかと思います。
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