退職給付債務の計算方法を簡便法から原則法に変更した場合の処理のタイミングは?
今回は、退職給付引当金を簡便法から原則法に変更した場合に、どの時点で損益を認識すべきかについて考えてみます。計算方法を簡便法から原則法へ変更した際の処理については、以前”退職給付債務の計算方法を簡便法から原則法へ変更した場合の処理”で書きましたが、どの時点で損益を認識すべきかについては書いていませんでした。
この点について、「キーワードでわかる退職給付会計 二訂増補版」(有限責任監査法人トーマツ 公認会計士 井上雅彦著)では、「移行に係る会計処理としては、例えば、期中は簡便法による退職給付費用を計上し、期末の実際退職給付債務は原則法により評価する方法などが合理的でしょう。」と述べられています。
ところが、”退職給付債務の計算方法を簡便法から原則法へ変更した場合の処理(その2)”で書いたように、実際の事例としては第1四半期で損失を計上しているケースが多いように見受けられます。
ここで、第1四半期で簡便法から原則法へ変更した際の影響額を計上してるということは、期首時点で原則法により計算した場合の金額と従来の計上額との差額を計上しているということになると考えられます。そうであるならば前期末で処理できた(処理すべきであった)のでは?という疑問が生じます。
この点について考えると、原則法による計算を行う際のデータ基準日がいつであるかという点が影響するのではないかと考えられます。データ基準日については、合理的な調整を加えることを前提に、最長で貸借対照表日(決算日)の1年前とすることが認められています。
データ基準日を貸借対照表日の1年前とすることとした場合、例えば2012年3月期の退職給付債務を計算するためのデータ基準日は2011年3月31日となります。この場合、2012年3月期中に退職給付制度の対象となる従業員が増加して300人を超えたとすると、2012年3月31日をデータ基準日として原則法による退職給付債務がはじめて計算されることになると考えられます。
通常の流れであれば、2012年3月末のデータに基づいて2013年3月末の退職給付債務が計算されるわけですが、2012年3月末の退職給付債務を計算することも当然できます(これが原則です)。しかしながら、2012年3月末のデータで2012年3月末の退職給付債務を計算し、会計処理を行うのは決算日程上に困難です。そこで、期首時点の原則法と簡便法との差額を翌期の第1四半期で処理するということになるのではないかと思います。
一方で、期末時点で原則法を適用できるだけの従業員数となったのであれば、その時点で会計処理を行うべきと考えると、冒頭の「期末の実際退職給付債務は原則法により評価する方法などが合理的」ということになると考えらえます。
上記では、データ基準日が1年前を想定していますが、3月決算の会社が仮に12月31日をデータ基準日とし、その時点で300人を超えていたとすれば、その年度末において原則法への変更の影響額を処理することが可能であると考えられるので、年度末に処理が必要となると考えられます。このような場合はまさに、期中は簡便法により退職給付費用を計上し、期末に原則法との差額を処理するということになるのではないかと考えられます。
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