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従業員不正による損害賠償金の計上時期

従業員不正による損害賠償金の税務上の取扱いについては、以前も触れたことがありますが、会計・監査ジャーナルの2013年3月号の租税相談Q&Aで「従業員の横領に係る損害賠償金の計上時期」という記事が掲載されていたので再度取り上げることにします。

質問内容は、売掛債権の不一致から会社従業員による千万円単位の横領・着服が発覚し、数年前から不正行為が行われていたが、損賠賠償金の益金算入時期は、①同時両建説、②異時両建説、③損失確定説のいずれの立場によるべきか、また損害額と損害賠償請求額に差額がある場合の税務処理はどのようになるか、というものです。

1.私法上の考え方からの損害賠償金の益金計上時期

私法上の考え方からすると損害賠償金の益金計上時期については、同時両建説(昭和43年10月17日最高裁判決)が取られることになります。

これは、「法人が不法行為により損害を受けた場合には、私法上、その損害の発生と同時に損害賠償請求権を取得するものと解されており、これに即すれば、法人税法上、被った損害に係る損失は、その損害が生じた事業年度における損金(同法第22条第3項第3号)を構成し、取得した損害賠償請求権は、損害が生じた事業年度における益金(同法第22条第2項)を構成する」ためです。

2.課税実務上の損害賠償金の益金計上時期

一方で、課税実務上は、異時両建説(昭和54年10月30日東京高裁判決)による処理が認められています。つまり、「損害賠償金の確定ないしは実際の給付に極めて不安定な面があるとして、原則として、その支払いを受けるべきことが確定した時の収益とする(潜在的な損害賠償請求権の収益計上を要しない)とし、被った損害に係る損失がその損害の発生した時点で損金算入されることと切り離しての損害賠償金の処理」を行うことが認められています。

更に、法人税法基本通達2-1-43では現金主義による損害賠償金の益金計上もできるとする取り扱いが示されています。

(損害賠償金等の帰属の時期)
2-1-43 他の者から支払を受ける損害賠償金(債務の履行遅滞による損害金を含む。以下2-1-43において同じ。)の額は、その支払を受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入するのであるが、法人がその損害賠償金の額について実際に支払を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入している場合には、これを認める。(昭55年直法2-8「六」により追加、平12年課法2-7「二」、平23年課法2-17「四」により改正)

(注) 当該損害賠償金の請求の基因となった損害に係る損失の額は、保険金又は共済金によりされる部分の金額を除き、その損害の発生した日の属する事業年度の損金の額に算入することができる。

3.役員・従業員不正により生じた損賠賠償金の場合の益金算入時期

さて、問題の役員・従業員不正により生じた損害賠償金の場合ですが、この場合は同時両建説による処理をすることが予定されています(平成21年2月18日東京高裁判決。

理由は、法人税法基本通達2-1-43は「他の者から支払を受ける」損害賠償金に限定しており、法人の役員や使用人から受ける損害賠償金には当てはまらないためです。

なお、同時両建説によった場合、役員や従業員の無資力によって結局損害賠償金を回収できないことがあり得ますが、その場合には貸倒損失の問題として、回収できないことが明らかとなった時点で損金算入することになります。

4.不法行為により役員又は使用人が法人から得た利得とその課税処理

役員・従業員が不正行為により利得を得ていた場合、その税務処理としては以下の三つのケースがみられるれています。

①不正行為を行った者に対する給与と認定される
②不正行為を行った者に対する貸付金と認定される
③不正行為を行った者に対する損害賠償請求権の取得とされる

①の考え方は、不正を行った行為が法人の行為と認められるとするもので、「給与支出の外形を有しない所得であっても、特段の事情のない限り、実質的に、その者がその地位及び権限に対して受けた給与であると推認することが許されるとの考えによるもの」です。

②の考え方は、「役員等に対する給与の認定に代えて、その役員等に対する貸付金とするということであり、そのような法人の意思が認められてのものであると考えられます。」とされています。

③の考え方は、「役員等による売上除外による簿外資金の捻出という行為が、売上除外をした役員ら行為者の個人的行為であって、法人としての行為とは認められない場合の処理」とされています。

上記のように、最終的にどのように税務上取り扱われるかは、法人の意向も影響する上、現実問題として、法人が脱税目的で行った行為なのか、個人的な横領行為を隠ぺいするための行為であるのかを判別するのも困難です。そのため、上記通達で「他のものから支払いを受ける損害賠償金」という限定が付されていることについて、判例においても「このような限定を付したのは、たとえば、本件のような横領行為の隠ぺい等のために収入の圧縮や架空計上等が行われた場合、外形的には法人自身がなした脱税行為と識別がつかないためこのような場合に例外的取扱いを認めると徴税事務に著しい支障を生じるためであると解されている」(平成13年7月26日大阪高裁判決)とされています。,/p>

5.損害賠償請求権の存在の把握容易性

平成21年2月18日東京高裁判決の判例では、「本件のような不法行為による損害賠償請求権については、例えば加害者を知ることが困難であるとか、権利内容を把握することが困難なため、直ちには権利行使(権利の実現)を期待することができないような場合があり得ることろである。このような場合には、権利(損害賠償請求権)が法的には発生しているといえるが、未だ権利実現の可能性を客観的に認識することができるとはいえないといえるから、当該事業年度の益金に計上すべきであるとはいえない」とされています。

上記からすれば、同時両建説によらなくてもいいのではないかといえますが、ポイントは「加害者を知ることが困難であるとか、権利内容を把握することが困難」であるかです。

上記の判決では、結局のところ不正が容易に発見できたはずとの理由から、「加害者を知ることが困難であるとか、権利内容を把握することが困難なため、直ちには権利行使(権利の実現)を期待することができない」場合には該当しないとされています。

この観点からすると、冒頭の売掛債権の差異から不正が発覚したようなケースでは、通常行われている売掛債権の管理状況からすると、損害賠償請求権につき、その存在、内容等を把握できず権利行使を期待できないような客観的な状況にあったとはいえないとされる可能性が高いということになります。

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