「日本式モノづくりの敗戦」(野口悠紀雄著)
今回は「日本式モノづくりの敗戦」(野口悠紀雄著)をとりあげます。この書籍の副題は「なぜ米中企業に勝てなくなったのか」というものです。
いろいろなところで、日本のモノづくりが苦境に陥っている原因について述べられていますが、この本で興味深かったのは、「スマイルカーブ」は日本では成立しないというものです。
「スマイルカーブ」とは、製品の開発工程と販売・アフターサービスが高収益で、製造工程は低収益というものです。開発から販売・アフターサービスまでの収益性をグラフで書くと、笑ったときの口もとの形(逆への時)になるのでそう呼ばれています。
このスマイルカーブの特性をうまく活用している企業として最近よくとりあげられるのがアップル社です。アップル社は、工場をもたないファブレス企業で、製品の開発と販売に特化し、製造はフォクスコンに委託しています。若干陰りが見え始めているといわれるものの、画期的な製品を世に送り出し、センスの良いストアで販売を行って高収益をあげています。
ところが、日本ではファブレス化に否定的な人が多いと同書では指摘されています。(すこし古いですが)2005年版ものづくり白書では以下のような調査結果が示されているそうです。
①日本の製造業で最も利益率が高い工程が「製造・組立」だと回答した企業は44.4%
②「販売」との回答は30.8%
③「研究」が最も高いとする企業は、わずか0.7%。「開発・設計・試作」は8.4%
上記の結果は、スマイルカーブとは全く反対の「逆スマイルカーブ」となっています。このようになる理由について、白書では「各部門間の情報共有と調整によって、市場変化に迅速に対応し、最適な部品調達と生産管理が行われているためだ」と述べられているそうです。
このような分析に対して、筆者は、仮にこうした理由があるのであれば、今でも日本の製造業は世界に冠たる産業であるはずであるが、現実にはそうなっていないと指摘し、製造・組立工程という中間段階の利益率が最も高くなるという日本製造業の構造が問題だったとしています。このような、中間段階での利益が保証されるのは、自動車生産のように部品相互の調和が重要な製品の場合のみであるにもかかわらず、そのような産業以外でも「日本式モノづくり」に固執したため苦境に陥ることになったとしています。
例えばウォークマンの時代は部品のすりあわせが重要であったので日本勢が優位であったが、デジタル化によってすりあわせの必要性が低下するにしたがって優位性が失われることとなったとしています。また、今後デジタル一眼カメラでもミラーレスが主流となると、やはりすりあわせの重要性が低くなるため同様の状況に陥ることが予想されるとしています。
では、どうすればよいのか?
この点について、筆者は日本製品のブランド力をうまく利用することが必要だとしています。例えば、米国の液晶テレビの市場シェアは第1位がビジオ、2位がサムスン、3位がソニーとなっていますが、自室にはビジオ製のテレビを置いても、居間にはソニーやシャープのテレビを置くそうです。これは、日本製品のブランド力が認められているためで、このようなブランド力を活かすことが必要だとしています。
また、日本企業は現場力が強くても経営の判断能力が弱いとしており、このような状況を打開するには、外国企業などに買収してもらうことも必要ではないかとしています。
ソニーのストリンガー氏の例もあるので、外国人の経営者だからいいとは限りませんが、逆に外資に必要以上に抵抗しなくてもよいと思います。
日々成長