消費税引き上げに伴う経過措置-工事の請負等(その1)
今回は消費税引き上げに伴う経過措置のうち工事の請負等にかかる経過措置についてです。通常の保守契約等の処理を理解する上でも、この経過措置の内容を正しく理解しておく必要があると考えられます。
請負契約とは?
請負とは、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる契約を意味します(民法632条)。そして、請負契約における報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に支払わなければならないとされています(民法633条)。ただし、目的物の引き渡しがない場合は、労務の提供完了後(期間契約の場合は期間経過後)に報酬を請求できるとされています(民法633条ただし書)。
請負契約に適用される税率の原則
請負による資産の譲渡等の時期については、消費税基本通達9-1-5において以下のように述べられています。
9-1-5 請負による資産の譲渡等の時期は、別に定めるものを除き、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の全部を完了した日とする。
つまり、完成引き渡し時の消費税率を用いることが原則的な取扱いとなります。なお、法人税法においても、請負については目的物の全部を完成して引き渡した日を収益の帰属時期とすることが原則とされています(法人税法基本通達2-1-5)。
工事の請負等の経過措置の概要
工事の請負等に関する原則的な取扱いは上記のとおりですが、工事の請負等は、契約から完成引き渡しまでに長期間を要することが多く、そのため税率について経過措置が設けられています。
すなわち、消費税率の引き上げが予定されている施行日以後に目的物の引き渡し等が行われる場合であっても、契約の締結時期が指定日より前である場合には、改正前の税率(例えば、5%⇒8%への引き上げ時には5%)が適用されます。
指定日(経過措置適用の基準となる日)および施行日(新税率の適用が開始される日)は、以下のように定められています。
区分 |
指定日 |
施行日 |
---|---|---|
消費税率8%への引き上げ時 | 平成25年10月1日 | 平成26年4月1日 |
消費税率10%への引き上げ時 | 平成27年4月1日 | 平成27年10月1日 |
ここでの注意点は、経過措置は、事業者の選択によって適用されるものではなく、適用要件に該当すれば請負人及び注文者の双方に適用されるという点です。
契約締結時期と適用税率の関係
契約締結時期と適用税率の関係については、指定日の前日までに締結した工事の請負等に係る契約に基づき、施行日以後にその契約に係る課税資産の譲渡等を行う場合には、旧税率を適用することとされています(「社会保障の安定財源の確保等と図る税制の抜本的な改革を行うための地方税法及び地方交付税法の一部を改正する法律」(以下「税制抜本改革法」)附則5条3項、16条)。
ここでのポイントは、適用税率の判定にあたり工事の着手日は関係しないという点です。この点については「平成 26 年4月1日以後に行われる資産の譲渡等に適用される消費税率等に関する経過措置の取扱い Q&A」(平成25年4月国税庁消費税室)のQ&A20でも確認されています。
すなわち、「当社が受注した建設工事について、改正法附則第5条第3項《工事の請負等に関する税率等の経過措置》に規定する経過措置の適用を受けようとする場合、当該工事については、施行日前までに着手しなければならないのですか。」という問いに対して、「指定日の前日までに工事の請負契約を締結したものであれば、施行日前に着手するかどうか、また、その契約に係る対価の全部又は一部を収受しているかどうかにかかわらず、この経過措置が適用される」という点が確認されています。
なお、契約日から工事着手日までの期間についても特に要件は設けられていません。
契約締結日と適用税率の関係をまとめると以下のようになります。
契約締結日 |
工事の請負等に適用される |
---|---|
平成8年10月1日から平成25年9月30日まで |
5% |
平成25年10月1日から 平成27年3月31日まで |
平成26年3月31日までに引き渡し・・・5% 平成26年4月1日以後に引き渡し・・・8% |
平成27年4月1日以降 |
平成27年9月30日までに引き渡し・・・8% 平成27年10月1日以後に引き渡し・・・10% |
なお、上記表の一番上が「平成8年10月1日」となっているのは、消費税率が3%から5%に引き上げられた際の経過措置の名残りです。つまり、平成8年9月30日までに契約が締結されていた工事の請負等については、今回の経過措置と同様に3%が適用されるということになっています。
次に、経過措置の対象となる請負契約等の範囲についてですが、これは次回とします。
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