“我が国の引当金に関する研究資料”の公表-日本公認会計士協会
2013年6月24日に日本公認会計士協会から「我が国の引当金に関する研究資料」(会計制度委員会研究資料第3号)が公表されました。
これは、引当金の実務において「経済環境の変化や企業の事業内容の多様化・複雑化などを背景として、認識又は測定に係る判断が容易ではない場合があるとの指摘が従来から見られ、監査実務においても論点となることが多い」ことから、引当金に関連する論点の洗い出しと具体的な会計処理(主に注解18に基づく)及び開示についての考察を行ったものです。
取り上げられている引当金は、賞与引当金や返品調整引当金など一般的な引当金から、リコール損失引当金や事業構造改善引当金など合計で26の引当金が取り上げられています。なお、「本研究資料では、具体的事例における会計処理の考え方を示しているが、あくまでも現時点での考え方の一つを示しているものであり、実務上の指針として位置付けられるものではなく、実務を拘束するものでもない。」とされています。
内容としてはそれほど踏み込んだものとはなっていないので、参考になる部分は少ないように感じましたが、その中で買付契約に関連する引当金(ケース9)、リストラクチャリングに関連する引当金(ケース19)、本社移転損失引当金、移転費用引当金、店舗閉鎖損失引当金等(ケース20)の三つを取り上げます。
買付契約に関連する引当金
これは、メーカーなどが、仕入価格の低減や仕入数量の確保を図るために原材料等の棚卸資産について解約不能の長期買付契約を締結している場合で、その後販売市場価格の下落等により正味売却価額が将来の引取見込原価を下回ることが見込まれる場合に引当金を計上することが妥当かというものです。
結論としては、「将来の棚卸資産の購入に伴って生じる損失が、当期以前の解約不能の買付契約の締結及び当期末までの事業環境の変化に起因しており、損失の発生の可能性が高く、その金額を合理的に見積もることができる場合には、確定買付契約に関連する引当金を認識することになると考えられる」とされています。
この結論自体は想像通りだと思いますが、あえて取り上げたのは「連続意見書第四「棚卸資産の評価について」においても、棚卸資産の確定買付契約が存在する場合において、契約上の代価よりも時価が低落しており、かつ、その回復が見込まれないときには、これに対して、評価切下げを行うことが是認されており、この見解によれば、いまだ買手側の棚卸資産を構成していない確定買付契約に係る評価損に対して「買付契約評価引当金」を流動負債に計上することとされている。(連続意見書第四 第一 三 1(注8))」という点が目についたためです。
会計士の受験勉強時代には見たもので実務上ほとんど見ることがないものの代表格が「連続意見書」ではないかと思いますが、こんなところで登場するとは、何が書いてあったのかすっかり忘れているのでたまには目を通しておいたほうがよいのかもしれません。
リストラクチャリングに関連する引当金
ここでは、事業の整理(譲渡、統合、撤退等)や子会社等の整理(売却、清算等)に関連して、以下の二点が検討されています。
最初の点については、「原則として、固定資産の減損損失、投資有価証券の減損、貸倒引当金、未払退職金等のそれぞれの内容に応じた会計基準を適用して会計処理し、表示することになると考えられる」とされています。
後者の点については、「引当金の認識時期は、リストラクチャリング計画の決定・公表後、その実施前の引当金の認識要件を満たした時点になると考えられる」とされています。
最初の点については、他の基準で処理等が要求されているものはそれに従うべきということになるのは理解できますが、情報の利用者の立場からするとリストラにより発生するものであればひとまとめにして内訳を開示させるような開示の方がインパクトを理解しやすいのではないかと思います。
引当金の認識時期については、計画公表後に要件を満たせば計上するというのは実務慣行上浸透している考え方だと思います。
本社移転損失引当金、移転費用引当金、店舗閉鎖損失引当金等
これについては、以下の2点について検討がなされています。
最初の点については、「賃借契約の解約に伴う中途解約違約金や、オペレーティング・リース取引に係る未経過リース料が考えられる」とされています。
後者の点については、「移転又は閉鎖等の方針を決定しただけで期末日までに移転が行われていない場合には、一般的には、費用の発生が当期以前の事象に起因しているとは判断されないため、引当金の認識要件を満たしている場合は多くないものと考えられる。」
後者の移転費用については、会社側に関連するインパクトを一回で取り込んでしまいたいという思惑が働くことがあるので、どさくさまぎれに移転費用などもリストラ引当金に入っているケースも確かにあるように思います。このような傾向は、会社の健全性を保つために積極的に引当金の計上する会社でみられる傾向がありますが、当期の負担に属する額ではないという点は忘れてはなりません。
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