取引先の接待に要する時間は時間外労働か?
ビジネスガイドの2013年10月号に弁護士の岩本充史氏による「取引先の設定に要する時間の取扱いと時間外手当の支払義務」のQ&Aが掲載されていました。
このQ&Aの質問は以下のようなものです。
営業社員が取引先を接待することがあり、会社としては取引先と営業社員が懇親を深めることは有意義との立場から、後日社員から飲食代の精算を求められてた場合は精算を行っている。そのような中で、ある営業社員から接待の時間も労働時間だから時間外手当の支払いを請求されたが支払う必要があるか?というものです。
これに対する回答の結論としては、原則として時間外手当を支払う必要はないとうものでした。
理由としては以下のように述べられています。
最高裁判所は、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間のことを労働時間と定義付けますが、接待の内容が、特に特定の商談を使用者から指示されず、取引先との懇親を深めるという内容の場合には、使用者の指揮命令の下になされたものと評価することは困難でしょう。「接待」が労基法上の労働時間であるかが賃金請求事件で争われた裁判例はないと思われますが、接待等の会合に参加中等の災害が業務上災害等となるかが争われた裁判例では、会社が接待の費用を負担していたことの一事をもって業務上災害に当たるとは判断しておらず、これを踏まえれば、貴社において時間外手当を支払う必要は原則としてないと解されます。
ここで勘違いしてはならないのは、上記のケースはあくまで費用を会社が負担しているだけで「接待」自体が会社の指示ではないとうことです。逆に言うと、上司から取引先を接待するよう指示されているのであれば、接待を行う事自体が使用者の指揮命令に基づくものなので、接待に要する時間は労基法の労働時間に該当すると考えられるという点です。
どちらかといえば、接待自体が上司等の指示であることが多い(そうでなければ接待費用を会社がもってくれない)のではないかと思いますので、時間外手当が問題となる可能性を秘めていると考えられます。
なお、接待等の会合に参加中に災害に遭遇した場合に、それが労災に該当するかが争われた裁判例として以下の三つが紹介されていました。
(1)高崎労基署長事件(前橋地判昭50.6.24)
(2)国・中央労基署長(日立製作所・通勤災害)事件(東京地判平21.1.16)
(3)国・大阪中央労基署長事件(大阪地判平23.10.26)
最初の高崎労基署長事件だけ内容を紹介しておくと以下のとおりです。
親睦目的の会合ではあっても、右会への出席が業務の追行と認められる場合もあることを否定できないが、しかし、そのためには、右出席が、単に事業主の通常の命令によってなされ、あるいは出席費用が、事業主より、出張旅費として支払われる等の事情があるのみではたりず、右出席が、事業運営緊要なものと認められ、かつ事業主の積極的特命によってなされたものと認められるものでなければならない。