自宅兼事務所の家賃が必要経費として認められなかった裁判の詳細が判明
約1カ月前に”自宅兼事務所の家賃が必要経費として認められない!”というエントリで、自宅兼事務所の家賃や水道光熱費の損金算入が認められないという判決が出たという事案を紹介しました。
T&A master No.531号で紹介されていた記事については興味を持った方が多かったようで、同誌に「裁判所の判断内容などを詳しく利したいという問い合わせが多数寄せられた」そうです。これを受けて同No.535では、重要判決紹介として同判決内容がより詳しく紹介されていました。
前回の記事ではわからなかったことも含めて前提事実は以下のようなものです。
地代家賃を妻と1/2ずつ按分した額。T&A masterの記事からするとこの修正申告段階では本件家賃(=原告が居住する住宅に係る地代家賃)を1/2ずつ按分したということなので、家賃17万円を原告と妻で8万5千円ずつ事業経費に算入したということのようです。
地代家賃と同様に水道光熱費の1/2ずつ、原告と妻で按分した額
ここまでの前提事実からすると、自宅兼事務所の家賃が全く必要経費として認められないという最初のインパクトが若干薄れてきます。この事案において最終的には面積按分も否定されてはいるのですが、この記事を読む限りにおいて当初この原告は家賃全額を(自分と妻で)事業経費として取り扱おうとしたようなので、さすがにそれは認められないのは当然だと考えられます。また、税務調査が入って修正申告をした際に、このような無茶な処理を行った(元々行っていた処理を修正するのを拒んだという可能性もありますが、記事の書き方からすると修正申告に合わせてトライしたと読めます)ということから、追徴額を減少させるために苦し紛れに事業経費を増やそうとしたという色合いが強そうです。
よって、一言でいえばあまり普通の状況ではないといえます。
なお、国側の主張の一部として「原告が本件地代家賃のうち事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるべきと主張する金額は、確定申告から不服申し立てに至る経緯において変遷し、かつ、原告が本訴において主張する本件地代家賃の事業用割合は60%であるが、本件水道光熱費の事業使用割合は50%であり、本件地代家賃と本件水道光熱費の事業割合が異なることについて原告は何ら合理的な説明ができていない」と述べられています。このことからも、確定申告時0%、修正申告時100%、不服申し立て時60%というような変遷をたどったのではないかと推測されます。
一方で、原告の主張としては、以下のようなものです。
裁判所は、家事関連費を必要経費に算入することができる要件として以下の二つをあげています。
①事業所得等を生ずべき業務の遂行上必要であること
②その必要な部分の金額が明確に区分されていること
そして、「本件住宅は、全体として居住用の用に供されるべき3LDKの2階建て住宅であり、その構造上、本件住宅の一部について、居住用部分と事業用部分とを明確に区分することができる状態にないことが明らかであり、原告がその家族と共に本件住宅に居住していることを併せて考えると、平成21年時点において、原告と妻XXが、本件住宅のリビング等を本件業務の専用スペースとして常時使用し、それ以外の用向きには使用していなかったとは考えられず、むしろ、居宅である本件住宅において、原告が家族と共に家庭生活を営みつつ、本件各業務及びこれに関連する業務などを行っていたものと認めるのが相当である。したがって、本件のうちリビング等が、本件各業務のためにいわば専用スペースとして使用されていたことを前提として、本件地代家賃のうち本件住宅の全面積にリビング等が占める割合に相当する部分を本件各業務の遂行上必要な金額であるという原告の主張は採用することはできない」という判断が下されています。
記事のまとめ方の問題かもしれませんが、上記からすると「リビング」が無理筋で、芋づる式に2階の洋室も否定されたという感じがしてなりません。業務スペースと主張した2階の洋室がどのような状況であったのかについては特に触れられていませんが、机や本棚が配置されていたとすると6畳程度の部屋で年1、2回とはいえ寝室として使用できる位のスペースがあるものかは疑問です。
そのように考えると、今回の判決によって、自宅兼事務所の家賃の経費算入がすべて否認されるというわけではない気がします。
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