国際税務入門(その1)-概要
「国際税務をマスターしたい!と思ったとき最初に読む本(あいわ税理士法人編)」(以下「同書」とします)という本を書店で見かけたのをきっかけに、いままで気になっていたもののあまり触れる機会がなかった国際税務について確認することにしました。
”国際税務”という言葉はよく聞きますが、国際税務には海外支店や工場での税務はもちろんのこと、移転価格税制やタックスヘイブン対策税制、さらには海外駐在員に関連する税務など幅広い内容が含まれることになります。
個々の内容にはあまり深入りせず、ひととおり全体像をつかむという趣旨で確認していこうと思います。
以前”新規設立海外子会社と云えども子会社の経費を親会社が負担すると危険なのはわかりますが・・・”というエントリで海外子会社の経費を親会社が負担することに関して税務上否認を受けた事例について書きましたが、同書でも「現地法人の立ち上げ費用や現地との往復にかかる出張旅費、その後の技術指導等にかかる親会社の人件費を含めたさまざまなコストを親会社が負担していることが多く、税務調査でこれらのコストを親会社が負担すべきかどうかの議論になるケースが多く見られます」とされています。
なお、この点については、「現地法人設立の趣旨・目的をはっきりとさせ、親会社としてどこまでのコストを負担すべきか、そしてその投資コストはどのように回収する予定なのかを明確にしておくことが税務調査対策の点からはとても重要」とのことです。
海外取引の課税リスクはおそろしい?
自分の業務に無縁であれば、あえて難しそうな国際税務を学ぶ必要はないかもしれませんが、少しでも関係するのであれば、学んでおいて損はないのが国際税務といえるかもしれません。
理由は簡単で、追徴課税された場合に金額が非常に大きなものとなるリスクがあるためです。
同書では、平成22年に海外取引について税務調査が行われた件数が13,804件で、そのうち申告漏れ所得金額が発生した件数が3,578件で約25%にすぎないものの、1件当たりの申告漏れ所得金額は約6,800万円と金額が大きくなっており、「1件当たりの申告漏れ所得金額は年によってバラつきはあるものの平均して1億円前後で推移」していると述べられています。
大企業を対象とした多額の課税案件を含んだ平均であるとはいえ、海外取引を行っている中小企業でこのような多額な追徴が行われると資金繰りにも大きく影響する可能性があります。
税務署も取れそうなところで取ろうと考えるはずですので、そういった意味でも国際税務は無視できません。
国際税務をひも解く6つのキーワード
同書では国政税務を考える上では以下の6つのキーワードに着目して取引を整理するのがよいとされています。
- 居住地国
- 所得源泉地国
- 所得源泉地国の恒久的施設
- 所得源泉地国の適用税率
- 所得源泉地国の納税方法
- 二重課税の排除方法
上記1~3が「事実関係をひも解くキーワード」、4~6が「課税関係をひも解くキーワード」とされています。
1.居住地国
多くの国では、自国が居住地である法人に対しては、その法人の全世界所得に対して課税することを基本としています。たとえば、海外に支店があるようなケースにおいて、その支店が獲得した所得についても自国で課税対象とするとしている国が多いということです。
一方で、多くの国では、自国が居住地でない法人に対しては、自国で生じた所得に対してのみ課税が行われるということになります。
「居住地」というと一見明らかなように思いますが、たとえばある日本本社の従業員が本社と海外支店とを行ったり来たりして仕事をしているようなケースで、1年間のうち海外にいる期間のほうが長くなっているようなケースにおいて居住地はどちらになるのだろうというようなことが問題とある可能性があります。
「居住地」がどこになるのかについては、日本と相手国の税法によりそれぞれ判断することになります。基本的には、一方が居住地となれば他方は居住地とはなりませんが、「まれに、双方の国が居住地国と判定されることがある」ので注意が必要です。
長くなりましたので、今回はここまでにします。
“国際税務入門(その2)-6つのキーワード“へ続く
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