見積計上した費用は法人税法上加算すべきか(その1)
今回は、見積計上した費用の法人税法上の取扱いについてです。
以前書いた”見積計上した費用に対する消費税は?”というエントリの中で、見積計上した費用について「法人税法上、これらの見積費用については加算することになると思いますが、」と書いていましたが、これに対して以下のようなコメントを頂きました。
法人税においても消費税と同様に合理的に見積もった費用であれば売上原価はもちろん販管費でも損金として処理が可能なので(賞与引当金の未払法定福利費等を除いて)加算しない処理が一般的だと思います(一部抜粋)
上記のエントリでは断定的な表現となっていましたが、単に個人的な感覚にすぎないので「法人税法上、これらの見積費用については加算されていることが多いように感じますが」という表現に修正させて頂きました。
さて、その上で、果たして税務上加算する必要があるのかないのかを確認してみました。
コメントを下さった方は法人税基本通達2-2-1を根拠の一つとして挙げておられます。法人税基本通達2-2-1では以下のように述べられています。
(売上原価等が確定していない場合の見積り)
2-2-1 法第22条第3項第1号《損金の額に算入される売上原価等》に規定する「当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価」(以下2-2-1において「売上原価等」という。)となるべき費用の額の全部又は一部が当該事業年度終了の日までに確定していない場合には、同日の現況によりその金額を適正に見積るものとする。・・・(以下省略)
上記の通達は以下の法人税基本通達2-2-12と対比してみたほうが特徴がわかります。
(債務の確定の判定)
2-2-12 法第22条第3項第2号《損金の額に算入される販売費等》の償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務が確定しているものとは、別に定めるものを除き、次に掲げる要件の全てに該当するものとする。(昭55年直法2-8「七」、平23年課法2-17「五」により改正)
(1) 当該事業年度終了の日までに当該費用に係る債務が成立していること。
(2) 当該事業年度終了の日までに当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること。
(3) 当該事業年度終了の日までにその金額を合理的に算定することができるものであること。
売上原価と販管費で比較すると、売上原価の場合は事業年度末までに確定していなくても「同日の現況によりその金額を適正に見積る」ことで損金算入が認められるのに対して、販管費の場合は「当該事業年度終了の日までに債務が確定している」ことが損金算入の要件とされています。
このような違いは、「売上原価等については、当期の損金として計上した収益との客体別対応により」、「販売費・一般管理費等については、当期の期間に対応するものに限定することが予定されて」いることから生じています(「法人税法 平成25年度版」渡辺淑夫)。
そして、「企業会計では、費用および損失の期間帰属に関しては、発生主義と収益対応の原則の2つのテストによりこれを決定しており、税法においてもこれと同じ立場をとっている」(同上)として、基本的な考え方において会計と税法で違いはないとされています。
ただし、「企業会計においては、その性質上、当期の業績の表示を重視し、財政状態の健全性に強い関心を寄せることから、収益費用の対応関係をより強く意識する傾向があり、そのことが発生主義の具体的適用に作用して、積極的に費用の見越計上や引当金の設定を行おうとする姿勢として表われがちである」のに対して、「税法では、課税の公平を図るという見地から、所得計算は可能な限り顧客的に覚知し得る事実関係に基づいて行われるべきであるという考え方が強く、このために、とかく企業の恣意性が入り込みやすい費用の費用の見越計上や引当金の設定は原則としてこれを認めないという立場を採っている。」(同上)とされています。
このため、法人税法22条3項2号では、当期の損金とすべき販管費の範囲について「償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに確定しないものは除く」とされています。この趣旨は、「外部取引にかかる費用については、債務確定の事実をもってその発生を認識する基準とし、これに至らない単なる費用の見越計上や引当金の設定は、法令に別段の定めがない限り、これを認めないという」考え方を明らかにしているものです(同上)。
上記の考え方は債務確定基準と呼ばれていますが、「これとても企業会計における発生主義とまったく異質の基準という事ではなく、費用計算についてより厳格な立場を表しているということであろう」(同上)とされています。
基本的な考え方について会計と税務で差はないとのことですので、売上原価として計上されるものについては法人税基本通達2-2-1から会計上適切に見積計上されているものであれば基本的に法人税法上加算する必要はないということになると考えられます。
では、販管費はどうなるのかですが、長くなったので続きは次回以降とします。
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